「アリーちゃん?」

 昨日のことを思い返し、顔を赤くして俯くアリアに、レイラが心配そうに覗き込む。

「フレディと何かあった?」

 レイラが見た昨日の弟の姿は酷く辛そうで、宥めるように事情を聞けば、アリアはフレディの初恋だと言う。

 どこでどうやって出会ったのか聞き出せる状況じゃなかったし、弟を見てきたレイラは、半信半疑でもあった。

「あの……、フレディ様は設定を徹底されているのに、悪妻になりきれていない自分に落ち込んでしまって……」
「設定??」

 アリアから出て来た言葉にレイラは首を傾げる。

 書類に目を戻していたライアンも、二人の会話が気になり、書類を机に置いた。

「フレディ様は潔癖なご自分を押し殺してまで薬を使い、私に触れて夫婦仲をアピールしようとしてくださっているのに……」
「ん? フレディが、あの子が自らアリーちゃんに触れたの?」

 俯きボソボソと話すアリアに、レイラが増々首を傾げる。

「はい……手を絡ませ、あの……キスまで……。私は設定を通せず泣いてしまって……」

 そもそもあの時の自分はメイドだったわけで、という言い訳を口にしそうになった自分をアリアは責めた。

「ちょ、ちょっと待って!?」

 泣きそうなアリアに、レイラは額に手を当てながら静止する。ライアンも固まってこちらを見ていた。

「キス、したの!? フレディがアリーちゃんに!?」
「設定維持です……」

 しょんぼりと答えるアリアだが、レイラは顔を赤くして、興奮している。

「ライアン様……っっ」

 思わず夫であるライアンを振り返れば、彼は頭を抱え、椅子から立ち上がる。

「すまない、アリー……。まさか、義弟が君に手を出すとは夢にも思わなかった……いや、そうなったら良いな、とは思ったが……あいつ、手が早くないか!?」
「???? おし、ごと、ですので」

 アリアに頭を下げながらも、言っていることが矛盾している。訳もわからず、アリアも混乱しながら答えた。

「フレディの女神の話は本当、だったと言うわけね……」

 何故か驚いてアリアを見るレイラに、アリアは増々頭の中がハテナマークでいっぱいになり、目をパチパチとさせた。

「えーっと、アリーちゃんは、フレディのこと、どう思っているの?」
「はい! 精一杯悪妻を務めさせていただく所存です!」

 レイラはストレートに聞いたつもりだが、アリアからは斜め上の返事が返って来る。

「今日も、妻として、昼食を魔法省に届けて欲しいというご依頼でしたので、こうしてやって参りました!」

 机の上のバスケットを指差し、アリアは鼻息荒く、ふん、と意気込んだ。