「はい、出来たわよ!」
「レイラ様、急に申し訳ございませんでした」

 王城のライアンの執務室。

 レイラが鏡の前でアリアに「悪役令嬢」のメイクを施していた。

「いいのよお! フレディのためにアリーちゃんが受けてくれたお仕事ですもの! いつでも協力するわ!」

 可愛らしく笑うレイラのことを、アリアはひっそり姉のように慕っていた。

「ね、ライアン様!」

 執務室の机の上で書類に目を通していたライアンにレイラが呼びかける。

「ああ。可愛い義弟のために任務を受けてくれたアリーには精一杯サポートするよ」

 レイラの呼びかけにライアンもこちらに顔を向けて微笑んだ。

 二人の温かい言葉にアリアは胸がジンとする。

 王女のメイドをクビになった時、実家からは「家の恥晒し」「自分の食いぶちくらい何とかしろよ」と言われ、勘当に等しい状態だったアリア。

 そこを拾ってくれて、仕事を与えてくれたライアンには深く感謝をしていた。

「本来なら我がシュミット領でゆっくり生活しているはずだったのに、すまないね」
「いえ!! ライアン様のご家族のためですから!」

 申し訳なさそうに微笑むライアンに、アリアは力いっぱい答える。

「アリーちゃん、ありがとねっ!」

 アリアの返事を聞いたレイラが後ろからアリアをぎゅう、と抱き締めた。

(へへへ)

 レイラに抱き締められ、嬉しくなるアリア。

(お姉様だけど、やっぱりフレディ様とは違う、よねえ……)

 柔らかいレイラのハグに、気持ちがふわふわしながらも、昨日のことが思い返される。

(フレディ様の手、大きかった……あの手に抱き締められたら……)

 フレディはこれから周囲に知らしめるためにもアリアに触れていく、と宣言をした。

 昨日、キスをされたことには驚いたものの、不思議と嫌ではなかった。アリアはそれが「仕事」だからだと信じて疑わなかったけども。

(でも、何で昨日のことを思うと、こんなに顔が熱くなるんだろう――)