「はいはい、お二人の時間をたっぷり取られたいのでしたら、お食事を早くお済ませくださいね」

 サーラがパンパン、と手を叩く。

 そんなサーラを恨めしそうに見ながらも、フレディはスープに手を付けた。

「……うまい……」

 いつもと違う味付けに、フレディは目を見開いた。

「そうでしょう? そのスープはリアが作ったんですよ!」
「アリアが?」

 サーラの言葉にフレディはアリアを振り返る。

「お、おおお、お口に合ったなら良かったです……」

 フレディと視線を合わそうとしないアリアは、きょどきょどとする。

「思ったとおりです」

 サーラはそれだけ言うと、トレーを持って食堂を後にした。その後を追おうとしたアリアはフレディに手を取られる。

「フレディ、様?」

 触れられた手には食事のため、手袋をしていない。

「あの……?」

 大丈夫ですか?と言おうとした所で、フレディの顔がくしゃりと緩められる。

「!!」

 不意に目が合ってしまった。

 ラピスラズリのような深い青色の瞳に捕らえられ、アリアはその場に縫い留められてしまう。

(あ、わわわわ、触っても大丈夫なんでしょうか!?)

 慌てるアリアにフレディは増々その甘い顔を笑みで深めた。

「アリア、君が作ったスープ、本当に美味しい。流石、俺の奥さんだね?」
「へっ? あ、えっ!?」

 手を握られたまま、甘い笑顔でフレディが言うので、アリアは視線を漂わせてしまう。

 サーラに食事の準備を手伝って欲しいと言われた時は驚いた。

 フレディの潔癖は、この屋敷内だけではなく、社交界でも有名だ。そしてこの屋敷に通うメイドたちからは、フレディがサーラの作った物にしか手を付けないことも聞いていた。

(こんな騙し討ちみたいな出し方で、スープをかけられてもおかしくないのに……)

 悪役として色んな任務をこなしてきたアリアは、飲み物を引っ掛けられることもめずらしくなかった。