「どうぞ」

 夕食の時間になり、珍しく早く帰宅していたフレディは食堂にいた。

「……なぜ君が給仕を? 普通、妻は一緒に食事をとるものじゃないか?」

 スープを運んで来たアリアに向かって、フレディは呆れたように言った。アリアは未だお仕着せ姿のままだ。

「あの……私は今はメイドですので……」

 フレディの問に、おずおずと目を伏せて答えるアリア。

「君は、俺の妻だろう?」

 アリアの返答にムッとフレディが言うと、サーラがパンを運んでやって来る。

「フレディ様、あなたの奥様は、悪女で有名なアリア・クラヴェル様。真っ赤な髪で有名な方です」
「それがどうした」

 サーラの言葉にフレディがじろりと睨むと、彼女はやれやれ、といった感じに続けた。

「リアの髪はラベンダー色です。この子を妻だとおっしゃっていると、フレディ様が二人の女性を娶ったといらぬ噂が立ちます」
「……立ちます……」

 サーラの言葉に続くようにアリアも真似をして続けた。

「……屋敷にお前たち以外いないのだから、良いだろう……」

 ジト目でサーラに訴えるフレディ。

「いーえ! どこで誰が見ているかわかりません! リアに妻として接するのはお控えくださいませ!」

 どうせ離婚してリアを捨てるのでしょう?と目で非難するサーラに、フレディはたじたじになる。

「俺は、アリアと離婚する気は無い」
「ふえっ!?」
「まあ!!」

 フレディの宣言にアリアは驚きで飛び上がり、サーラは喜びで顔を上気させた。

「それでも! 今はあなたが悪女と結婚したと屋敷内でも社交界でも噂になっております。お控えくださいませ!」

 サーラの言葉にフレディは不満そうな表情を見せた。アリアはまだ固まっている。

「……まあ、寝室でしたら? 他人は侵入出来ないエリアですので、お好きになさいませ」
「なっ……」
「ふえっ!?」

 サーラの言葉にフレディは思わずパンを落としそうになった。固まっていたアリアは再び飛び上がった。

「ふむ、でもそうか。アリア、仕事を終えたらちゃんと寝室に……俺の元へ帰ってくるように」
「は、はははははい!?」

 少しだけ考え込み、何かを納得したフレディは、アリアにそう告げる。アリアは訳もわからず返事をした。

「仕事だよ?」
「かしこまりました!!」

 フレディの「仕事」という単語に、素早く反応するアリア。

「だからどうして君は……」

 そっか、「仕事か!」とあからさまに嬉しそうな表情をしたアリアに、フレディは顔をムスッとさせた。