「何をしているんだ!?」

 屋敷に帰ったフレディは驚愕した。

「お、おかえりなさいませ!!」

 メイドのお仕着せに着替えたアリアは、箒を片手に庭を掃除していた。

 フレディが驚いていると、玄関から通いのメイドがやって来た。恰幅のいい、お団子頭の40代くらいの女性だ。

「リア、庭は終わったのかい?」
「は、はははい!」
「リア?」

 二人の会話にフレディが眉を寄せると、通いのメイドがフレディに気付いて慌てて頭を下げた。

「お、お帰りなさいませ! ローレン公爵様……!」
「ああ」

 潔癖で人を寄せ付けないフレディは、メイドが出入りする時間にほとんど帰って来ない。

 魔法省での仕事や研究をこなし、だいたい夜遅くに帰って来る。食事も家令の妻、唯一の住み込みのメイド長であるサーナが作った物しかとらない。

 通いのメイドは主に屋敷の掃除や洗濯が主だった。

 めったに姿を現さない主人にそのメイドはおののいた。

「これはお早いお帰りで」

 緊張した空気が流れる中、そこに現れたのはメイド長のサーナ。

 ベン同様、ローレン公爵家に長く仕えてくれていた女性で、二人が結婚した時、フレディは姉とささやかなお祝いをしたものだ。

 公爵家に仕えるメイドらしく、気品はそのまま、美しかった黒髪には今は白髪が混じっている。

「サーナ、これは……」

 フレディがサーナに問いただそうとした所で、彼女はメイドに合図をしてこの場を離れさせた。

「フレディ様、ここでは何ですから」
「ああ」

 サーナに促され、フレディはそれもそうだと頷き、屋敷に足を入れた。

「君も来るんだ」
「えっ!?」

 未だほうきを握りしめるアリアに声をかけると、アリアは驚いてその場で飛び上がった。

「わ、わわわ私、何か粗相でも……」

 青ざめるアリアにフレディはふっ、と口を緩めた。

「話をするだけだ」
「はあ……」

 何故か優しい微笑みを向けるフレディに首を傾げるアリア。

「リアさん、早くいらっしゃい」
「は、はい!!」

 サーナに呼ばれ、アリアはピャッと足早に彼女を追いかけた。

「何でサーナの言う事は素直に聞くんだ……」