「というわけだ」

 アリアと結婚をした次の日、フレディは義兄であるライアンの執務室を訪れていた。

 離れてはいるものの、魔法省も同じ王城の敷地内にある。フレディは仕事前に朝一番でライアンを訪ねたのだ。

「というわけだ、じゃないですよ……」

 アリアが悪役令嬢になった話を聞かされたフレディは、ライアンに向かって溜息を漏らす。

「俺は……本物の悪女だからこそ、簡単に捨てられると思って……」
「捨てて良いぞ? アリーも承知の上だ」

 アリアを愛称で呼ぶ義兄に驚き、フレディが顔を上げる。

「何だ?」

 その視線に気付いたライアンが、ニヤニヤとフレディを見た。

「いや……随分、彼女と親しく……いや、信頼しているようですが……」

 面白くない、といった表情を見せる義弟にライアンは誂いたいのを我慢して言った。

「彼女は悪役令嬢役を全うしてくれたからね。お陰で王女に近付いた令息の中で、王家にあだなそうとしていた家を炙り出すことが出来た」
「そんな危ない役目を?」

 満足そうに話すライアンにフレディは不満そうに視線を向ける。

「もちろん彼女に影の護衛はつけていたさ。 彼女の名誉のために言うが、もちろんアリーは清いままだよ?」
「当たり前です!」

 ライアンの言葉に、フレディはつい感情的に言葉を発してしまった。

 思い出の女の子――フレディにとっては初恋であり、最初で最後の恋だった。その思い出をも汚されたようで苛立ってしまった。

 しかしライアンはそんなフレディの態度を気にすることなく続けた。

「まあ、それで、彼女の役目は終わったから、報酬を渡してシュミット領に移り住んでもらおうと思っていた所だった」

 それをフレディの女避け&王女避けのために悪役令嬢を続けてもらうことにしたのだ、とライアンが話すのをフレディはぼんやりと聞いていた。