「見て、フレディ様と奥様よ」

 舞踏会の会場に着くと、二人は注目を浴びた。

 王太子のルードにより、アリアの悪役令嬢としての働きが世間に知らしめられた。

 王女のしでかしたことは王家の醜聞だ、と批判する者もいたが、ローズへの厳しい処分と、王位交代による変革に、多くの者は納得した。

 そして一人、悪評を背負っていたアリアには称賛が集まり、フレディとの結婚も祝福されるようになった。それでも、フレディに想いを寄せていた令嬢たちからは良く思われてはいないようで。

「どうやってフレディ様に取り入ったのかしら」
「あの貧乏伯爵家の娘でしょ?!」
「悪役令嬢の仕事って……。本当に男好きなんじゃなくて?」

 ヒソヒソと悪意のある言葉がアリアの耳に届く。

「――っ」

 フレディが声のした方にキッと睨もうとすると、アリアから制止される。

「アリア?! もう、悪意になんて慣れなくても良いんだよ?」

 心配そうに覗き込むフレディに、アリアはにっこりと不敵な笑みを浮かべた。そして、フレディの手に預けていた自身の手を、腕へとするりと回す。

「ご令嬢たちは、フレディ様と私が羨ましいようですわ。取り入った、というなら、あなた方も悪役令嬢になってみてはいかがかしら? まあ、そんなことで私たちの間に割って入れるとは思いませんけどね?」

 フレディの腕に絡みつき、アリアは噂をしていた令嬢たちに向けて言葉を放った。

「なっ――」
「ア、アリア?!」

 悔しそうに顔を歪めるご令嬢たち。フレディはポカン、と隣のアリアを見つめた。

「……フレディ様はそのままの私で良いと言ってくれました。悪役令嬢もきっと私の一部になっていると思うんです」

 少し恥ずかしそうに、でもいたずらっぽく笑ったアリアを、フレディが抱き上げる。

「ああ! 俺はどんなアリアでも愛しているよ!!」

 嬉しそうに、幸せそうに微笑むフレディに、アリアから初めてのキスが降り注いだ。

 舞踏会の入口で大勢がその光景を見守る中、わっと歓声が起こる。

「何やってるんだ、あの二人は……」
「まあまあ、幸せそうで良いじゃないですか」

 離れた所で見守っていたライアンとレイラは、幸せそうに笑う二人を見て、拍手を送った。

 すると、会場中からともなく拍手が起こり、二人は音の波に包まれ、もう一度、キスをした。