「レイラ」
「はい」

 いつの間にか執務室の奥にはライアンの奥様がいた。

(この方がお噂の……)

 同じ公爵家から嫁いだと聞くレイラは、やはり金色の綺麗な髪で、ラピスラズリの様な深い青い瞳をしていた。

 アリアはどこか見たことのある瞳だと思ったが、自分には縁の無い人たちなので気のせいだとすぐに思い直した。

「さあ、アリーちゃん、あなたを悪役令嬢に仕立ててあげるわね!」

 初対面から愛称で呼ぶレイラに気後れしながらも、アリアはその可愛らしい奥方にすぐに心を許した。

 彼女の弟が作ったという魔法薬で髪の色を赤く染め、悪役令嬢らしくカールさせる。

 メイクも眉を釣り上げさせ、意地悪く、しかし妖艶な悪役令嬢そのものへとアリアを変貌させた。

「す、凄い……!!」

 普段、気の弱い自分が強そうに見える。しかも、何だか美人だ。

「アリーちゃんは元が良いから、やりがいあるわね!」

 レイラの言葉にくすぐったくなりながらも、アリアに自信がつく。

「台本は私が書こう」

 かくして、「悪役令嬢」アリア・クラヴェルは誕生したのだった。