「俺なんて猫踏んじゃったすら弾けないよ」


 なんておどけたように笑う。

 彼の醸し出す雰囲気がすごく心地よくて、人と一緒にいても窮屈に感じないことに自分でも驚いていた。


 あの日以降、誰といてもその人のことを疑ってしまって、言葉すら信じられなくて怖かった。


 でも、彼はそうじゃない。

 なぜなのかはわたしにもわからないけれど。



【あれ、結構難しいですもんね】


「え、わかってくれる!?まあ、実際はドレミの“ド”がどこかもわかってないレベルだから相当ヤバいんだけどね」


【慣れてなかったら鍵盤がどれも同じに見えちゃいます】


「そうそう!あの鍵盤ハーモニカにも俺、“ド”の位置にシール貼ってたもん」