今のわたしにはお礼を言うのが精一杯だった。


 それなのに彼は嫌な顔を浮かべることもなく「ほんとのことだからね」と笑う。


 その笑顔と優しさにどくん、と鼓動が跳ね上がった。


 あれ?わたしってば、どうしてこんなにドキドキしてるんだろう。


【嬉しいです】


 何とか胸のドキドキを抑えて文字を打つ。

 単純に嬉しかった。
 誰からピアノの音を褒めてもらったのはすごく久しぶりな気がしたから。


 それに彼はわたしがどうして声を出して話さないのか何も聞いてこない。触れてこない。


 でも、腫れ物に触るかのような態度じゃなくて本当に会話をしているかのように接してくれるから気が楽だ。