ここにはわたしを知っている人なんていないのに。


 もう“アレ”は削除されたし、誰も覚えていないだろう。


 それでも一度覚えた恐怖はわたしの心をいつの間にか蝕んでいる。


 急いで車椅子を動かしてロビーを抜け、奥に進むと知らぬ間に小児科のフロアに辿り着いていた。


 今は病室にいる時間なのかキッズスペースには誰もおらず、しんとしていて寂しいくらい静かだった。

 ぐるりと周りを見渡すとわたしの目にあるものが映った。


 ピアノだ……。


 惹きつけられるようにそちらに向かって車椅子を動かす。

 ピアノといってもグランドピアノなどではなく、電子ピアノだ。