まあ、ピアノが弾けないわたしは断る以外の選択肢がないんだけど。


 先生は、どんな気持ちでわたしに頼みに来たんだろう。

 断ったら嫌な顔をするのかな。
 残念そうにするのかな。

 でも、弾ける見込みもないのにOKするのはダメだ。


 わたしは瞼を閉じて、机に手を置いた。

 脳内でピアノをイメージして指を動かそうとした。


 ーーーこんな演奏のどこがいいわけ?
 ーーープロになんてなれるわけないのにね


 忌まわしい記憶が流れ込んできて指が思ったように動かない。

 ダメだ。やっぱりわたしはまだ弾けない。

 それでも、この前よりは少しだけマシになっているような気がする。