どんよりと薄暗い空。静謐で重たい空気。

そして…地面に突き出すようにずらりと並んだ、大小様々な十字架。石碑。

所々壊れ、崩れかけ、石碑に刻まれた文字は潰れて、ほとんど読めなくなっていた。

何処からどう見ても、ここは。

「おっ…お、お墓…!」

「…まぁ、墓だな」

ジュリス君、何でそんなに冷静でいられるの。

お墓だよ?お墓なんだよ?

ってことは、さっき私が踏みつけちゃった骨って…。

もしかして、このお墓に埋められてた遺骨…。

…ひぇっ…。

「…う、埋め戻しておこう…」

「…何やってんだよ…」

う、埋め戻したら、呪われずに済むかと思って。

「お、お墓なんだよ、ジュリス君。ここ、お、お墓」

「あぁ。そんな感じの場所だな」

だから、何でそんなに冷静なの?

気がついたら、お墓に放り出されてたんだよ?誰だってびっくりするでしょ。

「の、呪われちゃうかもしれないんだよ?怖くないの?」

「呪う?何でだ?」

「だって、私達、お、お墓を荒らしちゃったんだよ?」

よくも我々の眠りを妨げたなー、ひゅーどろろ、みたいな。

しかし、ジュリス君は全く恐れる様子もなく。

「荒らしてねぇし、確かにここは墓みたいだが、でも現世の墓とは違うだろ」

「…」

「ここに埋まってるのは人間じゃねぇ。俺もあんたも、ここに埋まってる連中とは何の面識もない。赤の他人だ。呪われる謂われはない」

…ジュリス君、私よりよっぽど肝が据わってるなぁ…。

「大体、こんなところに足を踏み入れてる時点で、呪われてるようなもんだろ。呪いたきゃ勝手にしてくれ」

「ジュリス君って…格好良いね…」

「そんなことより、あんた一人なのか?」

…えっ?

ジュリス君に聞かれて、私は頭を振って周囲を見渡した。

…本当だ。一人になってる。

「羽久…。羽久と一緒だったはずなのに…」

冥界に飛び込むなり、強い力に引っ張られて…。

羽久と繋いでいた手がほどけて、羽久とは真反対の場所に飛ばされた。

そして、気づいたら私は、このお墓にいた。

羽久の姿が見えない。気配も感じない。

多分、違う場所に降り立ったんだと思う。

「…羽久…」

お墓に埋められている死者の呪いなんて、一瞬にしてどうでも良くなった。

羽久と離れ離れになること以上に、恐ろしいことが他にあるだろうか。

羽久は無事なんだろうか。ここからどれくらい離れてるんだろう…?

もし、私とも、他の仲間ともはぐれて、一人でいるんだとしたら…。

…相当不味いよね。この、何が起きるか分からない場所で、一人ぼっちなんて…。

私は幸い、ジュリス君と同じ場所に飛ばされたみたいだから、一人にならずに済んだけど…。

…って、あれ?