とにもかくにも、周囲の状況を確認しなくては。

俺はベリクリーデと共に、恐る恐る遺跡(?)跡地を歩き始めた。

人っ子一人…ならぬ。

魔物っ子一人いないな。

まぁ、魔物に出てこられたら困るから、むしろ助かっているのだが…。

それにしたって、虫一匹見つからないのは、逆に不気味…。

冥界特有の異様な雰囲気と相まって、余計に気味が悪い。

虫の声、風の音一つ聞こえない。

一人だったら、あまりの恐ろしさに気後れしてしまいそうなところだったが…。

「見て見て。キノコ生えてる」

ベリクリーデは無邪気にしゃがみ込んで、瓦礫の隙間から覗いた、紫色のキノコを指差した。

…なんか、状況が状況なだけに、むしろ癒やされるな。

「摘んで帰ろーっと」

あろうことか、冥界土産とばかりに、せっせとキノコを収穫していた。

おい、やめとけって。毒キノコだったらどうするんだ。

「あのな、ベリクリーデ。キノコも良いけど、竜の祠を先に…」

「あ。あっちにも生えてる」

全然話、聞いてくれない。

あっちにふらふら、こっちにふらふら。まるで小さな子供のようだ。

ジュリスがよく、ベリクリーデに迷子防止用ハーネスをつけたいと言ってるが。

その気持ちがよく分かった。

「キノコ、いっぱい取れた」

「そうか…。良かったな…」

「食べる?」

「それは遠慮しとく…」

そのキノコは、紫色のカサに、赤黒い斑点がびっしりと浮いた、見るからに毒々しい色をしていた。

絶対毒キノコだって。猛毒だよきっと。

「じゃあ、うんまい棒あげるね。はい」

ベリクリーデは、俺の手にうんまい棒(サルミアッキ味)を握らせてきた。

…こっちも要らねぇ…。

せめてサルミアッキ味じゃなければ…。普通のサラダ味とかコンポタ味だったら、喜んでもらってたんだが。

しっかし、冥界に来ても相変わらず自由だなぁ、ベリクリーデは…。大物の器だよ…。

…って、俺もベリクリーデと同じ器なんだけどな…。この違いは何なのか。

「天然モノ」の器と、「養殖」の器の違いなのか。

「あ、見てー。あっちにも何か生えてる」

「ちょっ…。ちょっと待ってくれ、ベリクリーデ」

「ほぇ?」

無邪気な顔だなぁ。

「キノコは良いんだけどさ、その前に竜の祠を一緒に探してくれ」

「…ほこら?何処にあるの?」

「…さぁ…」

分からないから探そうとしてるんだよ。今。

キノコより先に、探しものを探してくれ。

「ジュリスとも合流しないといけないだろ?まずは、この遺跡から出よう」

「成程、そっかー。うん、分かった」

よし。

ベリクリーデの了解も得られたから、まずは二人で、この遺跡から脱出しよう。