「シルナ…。シルナ!」

何度も呼びかけたが、返事はなかった。

…駄目だ。いない…。

最後に、シルナの顔を見た時。

冥界の『門』を潜った、あの時…俺とシルナは相反する引力に引かれて、反対の方向に飛ばされた。

そのせいで、俺とシルナはバラバラに…離れ離れになってしまったのだ。

…恐れていたことが起きた。

単独行動は危険だからって、二人一組のペアを決めたのに。

これじゃあ、全く意味がない。

むしろ裏目に出ている。

まさか、冥界に足を踏み入れるなり、仲間達とは全く別の方向に飛ばされるなんて思ってもみなかった。

俺とシルナが離れ離れになってるってことは…もしかしたら、他のメンバーも同じように…。

…非常に不味い事態だ。

冥界に来て一分足らずで、早速大ピンチ。

シルナは無事だろうか?この近くにいるのだろうか。

シルナだけじゃない、他のメンバーはどうしているだろう?

無事に冥界に辿り着けたのだろうか。ちゃんとペアの相手と一緒にいるのか?

「…!」

冥界に対する恐怖心より、仲間の姿が見えないこと、安否が分からないことに、俺は強い焦燥感を覚えた。

誰でも良い。一緒に来た仲間の誰かと合流しようと、仲間の姿を探して走り出そう…と、したその時。

あまりに焦っていたせいで、足元を全然見ていなかった。

「うわっ!!」

「…ほえっ…」

走り出した一歩目で、崩れた瓦礫か何かに足を取られ。

「ぐはっ…!」

そのまま、勢いよく前のめりに転倒。

瓦礫に鼻を思いっきりぶつけて、目の前に火花が散った。

多分、漫画みたいな転け方だったと思う。

「い…いたた…」

のろのろと身体を起こし、熱いものが込み上げる鼻を押さえて、後ろを振り向く。

しかし、次の瞬間には、転んだ痛みのことなんて忘れていた。

振り向いた先に、見慣れた人物がうつ伏せに倒れていたからである。

そこにいたのは、一緒に冥界に来た仲間の一人一…。

「べ…ベリクリーデ…!?」

「…」

ジュリスと一緒に来たはずのベリクリーデが、瓦礫の影に隠れるように倒れていた。

瓦礫に躓いたんだと思ったが、どうやら俺は、ベリクリーデに躓いたらしい。

ごめん。焦りと瓦礫に足を取られて、全然気づかなかった。

「ベリクリーデ、ベリクリーデ、しっかりしろ!」

俺は鼻を押さえたまま、ベリクリーデの傍らにしゃがみ込んだ。

ベリクリーデの身体を強く揺すったが。

「…」

ベリクリーデは無反応で、ぴくりとも動かなかった。

俺の背中に、冷たいものが流れた。

…ま、まさか…ベリクリーデ…。

「嘘だろ、おい。しっかりしろ、ベリクリーデ。起きるんだ。お前はこんなところで…!」

終わって良い命じゃないはずだ、と再度強くベリクリーデを揺さぶった。

だが、それでもベリクリーデは目を覚まさない。

どうすれば良いんだ。

俺はベリクリーデの身体を抱き起こし、顔を覗き込んだ。

ベリクリーデの身に何があっ、

「…zzz…」

「…」

「…zzz…。…むにゃむにゃ…」

…なぁ。

俺、もしかして凄く…間抜けな誤解をしていたのでは?