…再び、目を開いた時。

俺は、固い地面の上に仰向けに転がっていた。 

どうやら地面に叩きつけられたらしく、背中がじんじんと痛くて、すぐに起き上がれなかった。

「…」

背中の痛みに顔をしかめながら、俺はそのまま、ぼんやりと空を見上げていた。

奇妙な空だった。

空は墨を溶かしたように真っ黒なのに、空には大きな太陽が…黒い太陽が燦々と輝いていた。

その黒い空には、いくつもの傷跡のような亀裂が入り、赤黒い裂け目が無数に出来ていた。

恐ろしいなんてもんじゃない。ただ不気味である。

…ホラーファンタジーの世界に迷い込んだみたいだ。

ぼんやりと、そのまま不気味な空を見上げていたが。

「…っ!」

唐突に、そんなことをしている場合じゃないと思い出した。

俺は上体を起こして飛び起きた。

が、それが悪かったらしく。

「っ、いってぇ…」

叩きつけられた背中が、じんじんと痛かった。

しかし、それがどうしたと言うのだ。

ここは冥界。魔物の住む世界。

人間は、決して足を踏み入れはいけない世界なのだ。

そんな世界に、お邪魔しますとばかりに飛び込んできて。

背中をぶつけたくらいで済んでるのだから、可愛いもんだろう。

背中の痛みに耐えながら、その場に立ち上がった。

…改めて見渡してみると、冥界という場所は、本当に不気味だった。

夢の中にいるように、足元が覚束ない。

深夜の神社に、無断で忍び込んでいるような気分だ。

「ここに居てはいけない」と、本能が訴えかけているような…。

全身がチリチリとむず痒く、焦燥と恐怖心をミックスした緊張感に包まれていた。

気持ち悪い…。…物凄く。

辿り着いたそこは、まるで古い遺跡のような場所だった。

朽ち果てたレンガや、大きな石がいくつも転がっている。

何かの建築物の跡地なんだろうか?何もかもひび割れて、壊れて…瓦礫が山積みになっている。

随分長らく放置されているのか、割れた瓦礫の隙間から、枯れた雑草が伸びていた。

…さながら廃墟のようだな…。

不気味この上ない景色だが…。…これでも、まだマシなのかもしれない。

冥界に飛び込んだ瞬間、正体不明の魔物に襲われる…なんて恐ろしい事態は避けられたのだから。

見たところ、周囲に魔物の気配はなかった。

とはいえ、油断は出来ない。

そもそも人間は、魔物の気配を察知することは出来ないのだから。

いつ、見えない場所から不意打ちで攻撃されるか…。

だが、俺にとってそんなことはどうでも良かった。

ここが何処だろうが、魔物に襲われようがどうでも良い。

それよりも…。

「…シルナ…。シルナ、何処だ!?」

魔物に見つかる危険を犯してでも、俺は大声をあげてシルナを呼んだ。

俺の隣に、俺の傍らに、シルナがいないこと。

これ以上に恐ろしいことなど、俺にはなかった。

きっと、シルナにとってもそうだろう。