…初めて見る魔法道具だ。

「シュニィ。これは…?」

小さな…何の変哲もない、ただの笛のように見えるが。

「魔力を込めた笛です。この笛を持つ者同士なら、どんなに離れていても笛の音が聞こえます」

ほう。それは優れもの。

簡易携帯電話みたいなものだな。

「笛の音の強弱で、お互いのおおまかな距離も分かります。あらかじめ符牒を決めておきましょう」

「符牒?」

「はい。笛を1回吹いたら異常なし、2回吹いたら敵と交戦中、3回で緊急事態。というように」

成程。それで簡単な意志疎通が図れる訳だな。

「じゃあ、竜の祠を見つけたら4回ってことで」

こうして符牒を決めておけば、もし誰かがはぐれたとしても、探しに行けるな。

迷子対策。

「とはいえ、この魔法道具は現世のものなので…。冥界で使用出来るかどうかは…」

「こればかりは、行ってみないと分からないからな…」

あくまで、魔法道具は補助アイテム。

結局は、自分の頭で考え、自分の足で動くしかない訳だ。

良く言えば臨機応変、悪く行けば行き当たりばったり、みたいな…。

…この遠征、本当に大丈夫か?

不安になってくるから、考えないことにしよう。

何とかなるの精神で行こう。

「これだけは約束してください。もし冥界で危険を感じたら、他のペアを待たず、すぐ戻ってきてください。皆さんの身の安全が最優先ですから」

シュニィは真剣な表情で、遠征メンバー全員に向かって言った。

「最悪、目的を果たせなかったとしても…。全員揃って、無事に帰ってきてください。それ以上大切なことはありません」

きっぱりと、シュニィは言ってのけた。

家に帰るまでが遠足、ってことだな。

物騒な「遠足」なのだから。なおさら。

俺は改めて、自分以外の遠征メンバーを見渡した。

…絶対また、皆揃って帰ってこよう。

今度は、生き返ったマシュリも一緒にな。