唐突に聞こえたその声を、僕は知っていた。

忘れるはずがない。この声は。

僕にとって、最も大切な…。

「…スクルト…」

「…マシュリ」

これは夢なのだろうか。

僕の身勝手な願望が生み出した、幻なのだろうか。

それとも、やはりここはあの世なのだろうか。

…何でも良い。大事なのは、目の前に彼女が…スクルトがいるということだ。

…あぁ。

「…」

再会したら、言うべきことがたくさんあると思っていたのに。

いざ彼女を前にすると、僕は言葉が出てこなかった。

どの面下げて、再びスクルトと相対することが出来るだろうか。

彼女には何の罪もなかった。罪深いのは僕だけだ。罪を背負うべきなのは僕だけだったのに。

僕の罪のせいで、スクルトは死んだ。

僕が殺したのだ。

何よりも…誰よりも優しくて、大切な人だったのに…。

ありとあらゆる罵詈雑言、恨み節をぶつけられる覚悟があった。むしろ、彼女はそうするべきだった。

理不尽に命を奪われたのだから、当然の権利だった。

…それなのに。

スクルトの眼差し、表情、声音、その全てに一切の憎しみはなかった。

ただ、口元に優しい微笑みを浮かべていた。

…何で。

僕に命を奪われたのに…。憎んで当然なのに…。

何で、そんなに優しい顔をしていられるんだ。

「…スクルト…。…ごめんね」

「どうして謝るの?」

…どうしてって…。それは…。

「君の命を…未来を…奪ってしまったから」

「そう」

「それから…それから、君が…僕の為に未来を犠牲にしてくれたのに、僕は…君の守ってくれた未来を…こんな風に、無駄にしてしまった」

スクルトが命を懸けて、僕の未来を守ってくれたのに。

僕は…結局何も出来なかった。何も出来ず…何も為せず、何も残せずに、無様に死んでしまった。

スクルトが守ってくれた、未来の末路がこれだ。

…申し訳が立たない。合わせる顔がない。

こんな下らない結末を迎える為に…犠牲になってくれたんじゃない。

「…ごめん…」

謝っても、謝り切れなかった。

…それなのに、スクルトは小さく首を横に振った。

「あなたは何も悪くない。私は、自分の選択を後悔していないわ」

「…でも…」

「それにね、マシュリ。…あなたの未来は、まだ潰えていないわ」

…え?

「あなたの仲間達は、まだあなたを諦めていない。…見てご覧なさい。あなたを奪われた彼らが、今あなたの為に、『何に』挑もうとしているかを」

そう言って、スクルトは指を差した。

彼女が指差すその先に…僕が残してきた、仲間達の姿があった。

…当の僕が、既に生きることを諦めているというのに。

彼らの目は、まだ何も諦めていない。

大きな試練に挑もうとする、挑戦者のそれだった。