「何を期待してるのか知らないがな、さすがに俺だって、冥界への散歩なんて経験ないんだからな」

「う、うん」

むしろ、経験があったら凄いよな。

「でも…ジュリス君は強いから、一緒に来てもらえると嬉しいな」

「…」

「もし良ければ…だけど。どうしても気が乗らないなら、無理には…」

「…別に、そうは言ってねぇよ」

…え。

さっきから、あまりにも浮かない表情をしているから。

自ら冥界なんて危険な場所に足を踏み入れることを、無謀だと思っているんじゃないかと思ったが…。

「冥界に行くのは構わない。…俺は…」

…俺は?

すると、ジュリスはちらりと自分の横を一瞥した。

そこに居るのは、勿論。

「…?ジュリス、お出掛けするの?」

状況を理解しているのかいないのか、いまいち分からないベリクリーデである。

きょとんと首を傾げて、ジュリスに尋ねた。

「…あぁ、お出掛けだよ」

「ジュリスがお出掛けするの?じゃあ、私も一緒に行く」

「…ほらな。こうなるのが嫌だったんだよ」

あっ…。…成程、理解した。

ジュリスが浮かない顔をしていたのは、冥界に行きたくないからではなくて…。

「あのな、遊びに行く訳じゃないんだよ。冥界って知ってるか?危ないところなんだ。あらゆる魑魅魍魎が跋扈している…」

「本当?何だかお化け屋敷みたいだね」

「…全ッ然分かってない…」

無知ってのは恐ろしいな。

警戒するどころか、怯えるどころか、お化け屋敷感覚で楽しんでいらっしゃる。

…まぁ、うん。余裕があるのは良いことなのでは?

怯えて、緊張して、戦々恐々としているよりずっと良い。

「ジュリスが行くなら、私も行く」

「いや、お前はここで待ってろって。冥界に行ってまでお前の子守をするなんて、冗談じゃ、」

「あ、おやつ買ってこないと。おやつー」

「おい、遠足じゃないんだぞ。こら!」

ベリクリーデは嬉々として、会議室から出ていった。

…多分、冥界遠足の為のおやつを買いに行ったと思われる。

「…はぁぁぁ…」

ジュリスの、この超巨大な溜め息。

…苦労してんなぁ…。

「ま、まぁまぁ、ジュリス君…。こ、今回の遠征は二人一組が基本単位だから…。気心の知れたベリクリーデちゃんとなら、息が合うんじゃないかな…?」

ジュリスの為に、シルナは苦しい励ましの言葉をかけたが。

「…息、合うと思うか?あれ」

「…」

さすがに返事が出来なかった。

…自由奔放だもんなぁ、ベリクリーデは…。

「え、えぇっと…ど、どうしても大変そうだったら…ペア、替える?」

「いいや…。良いよ、ベリクリーデのままで…」

「…大丈夫?」

「あいつのことだから、来るなって言っても、ついてこようとするに違いない。何せ、部屋で大人しくしてろと言って大人しくしてた試しは一度もないような奴なんだからな」

う、うん。

「それに、俺の目の届かない場所に置いておく方が恐ろしい。最悪、冥界から帰ってきた時、魔導隊舎が跡形もなく吹っ飛んでる可能性まである」

冗談みたいに聞こえるが、ジュリスの顔は真剣そのものだった。

マジでやりかねない、と確信しているようだ。

「だったら…大人しく一緒に、冥界に連れていくよ…」

「そ、そっか…。ありがとうね、ジュリス君…」

「全く…。命がいくつあっても足りやしない」

切実な呟きをどうも。

だが、お陰で…これで、遠征メンバーが決まった。