ルーデュニア聖王国と、これから会談する相手…神聖アーリヤット皇国の間で行われた決闘。

あれは記憶に新しい。

非常に不平等な条件で、それでも国同士の全面戦争を避ける為に、苦肉の策で決闘を提案した。

決闘は、アーリヤット皇国の友好国であり、以前フユリ様がサミットの最中、言われなく閉じ込められた国。

ミナミノ共和国にある、国立競技場で行われた。

あのハラハラした決闘…。今でも、昨日のことのように思い出せるよ。

一回戦は、ベリクリーデちゃん…達が勝利した。

二回戦は…どう見てもマシュリ君の勝利だったけど、言いがかりをつけられて敗北。

最後の三回戦は、私と羽久が出場した。

正直あの時のことは…あまり思い出したくないのだが。

あれを勝利と呼ぶには、いささか後味が悪かった。

とはいえ、勝ちは勝ち。

決闘が始まる前は、どうしようもなく絶望的な状況だったけだ。

結果的には勝利を収めることが出来て、それはもう、胸を撫で下ろした。

…が、安心してばかりはいられない。

決闘に勝ったからって、仲良くアーリヤット皇国の国王…ナツキ様と手を取り合って、仲良くお友達になれるはずもなく。

それどころか、決闘によって両国の力関係…パワーバランスが崩れてしまったせいで。

両国の仲は、以前よりももっと険悪な状態になってしまっている。

…それでも、二つの大国が全面戦争に発展する…事態に発展しなくて済んだのだから、それだけでも良しとしなければならないだろう。

「…大丈夫ですか?フユリ様」

会談に望む前に、私はフユリ様に声をかけた。

少しでも肩の力を抜いて欲しかったのだけど…。

「…えぇ、大丈夫です」

その言葉とは裏腹に、フユリ様はいつになく、緊張した面持ちだった。

無理もない。

これは国と国の代表同士の謁見であり、そして…何年ぶりかになる、兄妹同士の対面でもあるのだ。

フユリ様にとっては…嫌でも、公私混同してしまいたくなるだろう。

「フユリ様…ご無理をなさらないでください」

「…済みません。シルナ学院長先生…。あなたに隠し事は出来ませんね」

そう言って、フユリ様は憂いを帯びた瞳を閉じた。

「正直に告白すると…。私は此度の問題が起きてからずっと、兄の真意を計り兼ねています…。元々兄は私を憎んではいましたが…。それはあくまで個人的な理由であって、国同士の諍いではなかったはずです」

「…それは…」

「それなのに、何故今になって突然?例の条約のことだって…」

フユリ様の言う条約…とはつまり、ナツキ様が先の主要国サミットで草案を提出した、世界魔導師保護条約のことである。

魔導師の保護、と言えば聞こえは良いものの。

その実態は、魔導師から自由に魔法を使う権利を奪い、魔導師を国の所有物として扱う、非人道的な条約である。

私達が決闘でアーリヤット皇国と戦ったのは、この条約締結を阻止する為でもあったのだ。