「冥界に行って、マシュリさんの心臓が封印されている、竜の祠を探すこと。そして、上手く竜の祠を見つけたとして、恐らくそれを阻むであろう神竜バハムートと戦って、心臓を奪い取ること」

「…」

「この大きな二つのハードルをクリアしない限りは、マシュリさんを蘇らせることは出来ません。…ご理解頂けました?」

…あぁ、理解したよ。

それが途方もない無理難題だってことをな。

マシュリを生き返らせるつもりで冥界に行って、逆に自分が死体になりかねんな。

ミイラ取りがミイラに…って奴だ。

「それに、何より知っておいて欲しいことは…。マシュリさんはきっと、僕達がそれほどの危険を犯してまで、自分が生き返ることを望まないだろうってことです」

…本当にな。

マシュリがこの話し合いを見ていたら、間違いなく止めただろう。

そんなことはしなくても良い。そんな恐ろしい、途方もない危険を犯してまで、生き返りたくはない…。

それならいっそ、死んだままの方が良い…と。

マシュリなら、きっとそう言うはずだ。

だから、これは俺達のエゴ。

マシュリの命を諦めきれない俺達が、必死に知恵を巡らせて、マシュリの望まないことをしようとしている。

「…僕は、冥界のことはよく知らないんだけど…」

と、天音が恐る恐る尋ねた。

「冥界って…そんなに恐ろしいところなの?確かに、神竜族は脅威だけど…」

「はい、恐ろしいところですよ。…人間にとっては」

天音の問いに、ナジュはきっぱりと答えた。

「冥界は元々、魔物の生きる場所であって、人間が居て良い場所ではないんです」

「…そう、なの?」

「逆に考えてみてください。召喚魔導師と契約している魔物…契約召喚魔以外に、現世を平然と闊歩している魔物を見たことがありますか?」

「…そういえば…」

…ないな。

魔物が現世を歩いている姿なんて、見たことがない。

「魔物にとって現世は異界。ただ息をしているだけでも苦しいそうです。リリスや、聖魔騎士団の召喚魔導師の人…」

「吐月のことか」

「はい、その人が契約しているベルフェゴールさんみたいな、上位クラス以上の魔物でないと、冥界と現世を繋ぐ『門』を潜ることさえままならないとか…」

…そんなに?

「ってことは…中位以下の魔物が現世の『門』を潜ると、どうなるんだ?」

「死にます」

えっ。

「…死ぬのか?」

「死にます。だから、魔物が現世で生きる為には召喚魔導師との契約が必要なんですよ。契約している魔導師に、耐えず魔力と『血』を提供してもらわなきゃ、現世にはいられないんです」

そ、そうなのか…。

俺には召喚魔導師の適性なんてないから、全然関係ない話だった。

…って、ことは。

それを逆にしたら…魔物が現世に、じゃなくて。人間が冥界に、ってことになれば…。

「…ただの人間である僕達が冥界に足を踏み入れようものなら、どうなるか…これで想像出来たでしょう?」

…あぁ。

非常に…恐ろしいことになりそうだな。