――――――…その日、私は珍しく、イーニシュフェルト魔導学院ではなく。

一人で、ルーデュニア聖王国の王宮に来ていた。

羽久(はつね)も一緒に来ると言っていたけれど、さすがにこの後の「会談」にまで同席する訳にはいかないし。

そもそも、私が同席させてもらうことさえ、異例の待遇なのに。

最後まで渋っていたけれど、羽久にはさすがに、今回は我慢してもらった。

心配かけて申し訳無い。

でも、どうしても羽久には学院に残っていて欲しかった。

どうなるか分からないでしょう?

この後行われる「会談」…その相手を思えば。

万が一にも、学院が狙われないとも言い切れない。

だから、もしものことが起きた時の為に…。羽久が学院に残っていてくれたら、心強いから。

万が一なんてない…と信じたいけど、念の為にね。

…さぁ、そろそろ時間だ。

「…フユリ様。そろそろ…」

私は、この後の「会談」に共に臨むことになる女性に、声をかけた。

フユリ・スイレン女王。

ルーデュニア聖王国の女王、その人である。

「…えぇ、行きましょう」

さすがのフユリ様も、表情を強張らせていた。

フユリ様も、私も、それなりにこれまで人の上に立つ立場で、様々な偉い人と会談してきたけど。

今回は、また別格である。

何せ…相手は、こちらと同じく一国の国王。

しかも、ルーデュニア聖王国と肩を並べるほどの大国。

そして…長年、互いに睨み合い、敵視し合っていた国なのだから余計に。

実際、ついこの間まで…最後通牒を突きつけられ、あわや宣戦布告される寸前まで行ったのだ。

何とか、戦果の火蓋が切って落とされるのだけは防いだものの。

互いに睨み合う関係なのは、未だに変わらない。

それだけではない。

私にとっては他人だけれど、フユリ様にとっては…実の兄に当たる人物なのだ。

特別な緊張感が生まれるのも、当然というものだった。