何でリリスが…というのは愚問である。

リリスはかつて、冥界にいた頃、マシュリと面識がある。

ケルベロスのキメラであるマシュリとは、主従の関係にあったそうだ。

だからリリスは、ここにいる誰よりも、マシュリの身体のことをよく知っている。

そのリリスが言うことなら、間違いないはずだ。

「マシュリさんの亡骸を目にしてからずっと、リリスの気配がざわついてましてね」

それで、ナジュの様子もおかしかったのか…。

「リリスはなんて言ったんだ?マシュリのこと…」

「なかなか教えてくれなくて、聞き出すのに苦労しましたよ。危うく嫌われるところだったんですからね」

そりゃ大変だな。

常日頃、相思相愛だと公言して憚らないリリスとナジュが、危うく嫌われかねかい事態に…。

…ってことは、俺が思ってるよりずっと複雑な…。

「えぇ、当たりです。複雑で…そして、危険です」

…危険?

「はっきり言います。マシュリさんは死んでない。仮死状態のマシュリさんを、生き返らせる方法もあります。リリスに教えてもらいましたから」

何だと?

俺は、思わず食い気味に、ナジュに食って掛かった。

「何だよ、その方法って?どうするんだ?どうすればマシュリは生き返るんだ…!?」

「私にも教えてください、ナジュさん。マシュリさんが生き返る方法があるのなら、私は何でも…!」

シュニィまでもが、珍しく冷静さを欠いて問い詰めた。

シュニィも相当、今回の一件が心に来ていると思われる。

「まぁ、落ち着いてください。ちゃんと話しますから」

「あ、す、済みません…」

「他の皆さんも、どうか冷静に聞いてください。そして、冷静な判断をお願いします。…本当にヤバい話なんで」

な、何だよ。

そんな真面目な顔して、そんな恐ろしいことを言われたら、こっちも身構えるじゃないか。

「身構えて欲しいんですよ、むしろ。リリスが僕に話すのを渋ったのは、それだけ危険だからなんです」

…危険…。

不死身であるナジュが、「危険」ときっぱり言い切るんだぞ。

それって、どんなに恐ろしい方法なんだ?

とても想像出来ない。

恐ろしい…確かに恐ろしい、けども。

「…方法があるのに、危険を恐れて足踏みする臆病な自分になる方が、もっと恐ろしいな」

「…羽久さん…」

「だから教えてくれ。この際…どんな方法でも構わない。それでもう一度…マシュリに会えるのなら」

仲間を失うこと。仲間を失うことを仕方ないと諦める自分。

それ以上に恐ろしいものなんて、他にあるものか。

「…皆さん、同じ考えですか?回れ右出来るのは今のうちだけですよ」

「馬鹿馬鹿しい。そんな臆病者が、この中にいるはずがないということは、心の中を読めるあなたが誰より分かっているでしょう」

ナジュの最後の警告を、イレースは腕組みしたまま、ばっさりと切り捨てた。

…その通りなんだが、イレースが言うと身も蓋もないな。

「さっさと話しなさい。前置きが長過ぎるんですよ」

「…やれやれ、せっかちな人ですね…。…分かりましたよ」

臆して回れ右をする者は、この中には誰もいない。

全く、俺達は揃いも揃って、赤信号に自ら飛び込んでいく暴走機関車みたいなもんだな。

「皆さん覚悟は宜しいようなので、話します。…マシュリさんを助ける方法について」

「で、それは何なんです?」

「方法は至ってシンプルです。冥界に行って、マシュリさんの最後の心臓を取りに行く。これだけです」

…。

…えぇっと。

…どういうこと?