ナジュが呼びかけ、天音が集めてくれたお陰で。

深夜の学院長室に、俺、シルナ、イレースとシュニィ、令月とすぐり。

それから、勿論天音とナジュも揃っていた。

令月とすぐりは、パトロール中だったのか、二人共ランタンを手に持っていた。

お前ら。もうパトロールするなとは言わないけどさ。

何でランタン?懐中電灯で良いだろ。

「済みませんね、皆さん。深夜に集まってもらって」

集まった俺達を見渡して、ナジュがそう言った。

…ナジュが話し合いの中心になるの、珍しいな。

大抵は、話し合いの輪から一歩離れて、話している人の心を読んで、にやにやしてるだけなんだけどな。

「失礼ですね。僕がいつそんなことしたんですか」

今だよ。まさに今。

「そんなことより、わざわざ深夜に呼び出した理由をさっさと話しなさい」

イライラした様子で、腕組みをしたイレースが言った。

更に、そのイレースの横にいたシュニィが。

「あの…天音さんから、ナジュさんが『諦めるのはまだ早い』と仰っていたと聞いたのですが…。一体どういう意味なんですか?」

それ、俺も聞きたかった。

「諦めるのは早いって…どういうことなんだ?」

「言葉通りの意味です」

「…いや、そう言われても…」

…全く分からないんだが。

お前、俺の心の中を読んでるなら、イレースがキレないうちにさっさと説明しろよ。

「マシュリさんの命を諦めるのは、まだ早いってことですよ」

「早いも何も、既に死んでるのに?」

と、令月が聞き返した。

その通りだ。マシュリはもう…この世の存在ではないのに、どうやって…。

「前提が間違ってるんです」

「前提って?」

「マシュリさんはまだ死んでない。…と、言ったらどうします?」

…えっ…。

そ、それって…。

「死んでない…?マシュリがまだ生きてるって言うのか?」

「生きてはいませんが、死んでもいません」

意味不明。

「仮死状態…ということですか?」

シュニィが聞き返すと、ナジュはその言葉に頷いた。

何だと?

「正確には、仮死状態とも違いますが…。この場合、分かりやすく仮死という言葉を使いましょう」

「じゃあ、マシュリは仮死状態なだけで死んでないってことか?そう言いたいのか」

「はい」

「…!」

ナジュは至って真剣な表情で、嘘をついているとは思えなかった。

そんなタチの悪い嘘、ナジュがつくはずもないし。

仮死状態…。マシュリが…?

死んでるようにしか見えなかった。心臓だって…止まっているのに。

理解が追いつかないよ。

「何で…お前、そんなことが分かるんだ…?」

マシュリが本当に死んでない、まだ諦めるのは早いと言うなら、それは俺達にとって願ったり叶ったりだ。

だけど…何故、ナジュにそんなことが分かる?

シルナでさえ、ナジュの言葉に目を見開いて驚いてるのに。

シルナが分からなかったことを、どうしてナジュが…。

…そういえば。

俺は、昼間のナジュの不自然な態度を思い出した。

「お前、なんかぼんやりしてるように見えたけど…あの時、何か…」

「…えぇ。でもあれは…ぼんやりしてたのは僕じゃなくて、リリスです」

そう言われて、納得した。

成程、気づいたのはナジュじゃなくて…ナジュの中のリリスだったのか。