「…俺は仇を討ちたいよ。マシュリの無念を晴らしたい」

「うん」

「だけど、そうしようとは思わない。だって…マシュリは、そんなこと望んでないだろうって分かってるから」

「…うん、そうだね」

仇討ちなんて、マシュリが望んでいようはずがない。

そんなことしなくて良い。自分のことはもう忘れてくれ、って。

マシュリならそう言う。…底無しに優しい奴だったから。

仇討ちなんて、俺の自己満足に過ぎない。

それどころか、俺達が仇討ちなんて企んでいると知ったら、マシュリはきっと止めるだろう。

そんなことの為に、神竜バハムートと敵対する必要はない。自ら危険に身を晒す必要はないのだと。

下手に仇討ちを試みて、返り討ちに遇って、万が一、また仲間の誰かが命を落とすことになったら…。

…それこそ、マシュリは死んでも死に切れないだろう。

「マシュリのこと、忘れる気なんて毛頭ない…。マシュリの望まないことをして、これ以上あいつを苦しめたくない…」

マシュリはもう、充分苦しんだのだから。

これ以上、マシュリを傷つけるような真似はしたくなかった。

「…うん、私もそう思う」

シルナも、俺と同じ意見だった。

…多分、他の仲間達も。

「マシュリ君は、仇討ちなんて望んでいない…。それは分かる。…分かる、けど…」

「…けど?」

「…ねぇ、羽久。アーリヤット皇国との決闘の時のこと、覚えてる?」

…は?

突然話が変わって、俺は一瞬言葉に詰まってしまった。

…えぇと、突然何の話だ?

「そりゃ…覚えてるけど…」

正直、あまり思い出したくない記憶だ。

決闘の三回戦に出場した俺とシルナは、ナツキ様の家臣である二人組…。ハクロとコクロと戦った。

あの時受けた催眠魔法、今も昨日のことのように覚えている。

シルナが存在しないという、不気味極まりない世界に飛ばされて…。

…うぅ、思い出すだけで気持ち悪い。

「何で今、その話なんだ…?」

「覚えてる?私はその時、羽久のいない世界で…イーニシュフェルトの聖賢者として、禁呪の研究をしていた…」

そこまで言われて、俺はシルナが何を言おうとしているのか気づいた。

…まさか、シルナ…お前。

「死者蘇生の魔法…のことか?」

「…うん。昨日からずっと、そのことを考えてる…」

「…」

チョコレートどころじゃない訳だ。

そんなこと考えてたら、そりゃ眠ろうと思っても一睡も出来ないだろう。

そうか…死者蘇生の魔法…。

ハクロとコクロに見せられた幻の世界で、シルナはその禁呪の研究を完成させ。

実際に、死んだイーニシュフェルトの里の族長を蘇らせた、と聞いている。

幻の世界の出来事だろ、と言われたらそれまでだが…。

しかし、シルナは確かにその世界で、自分自身の分身から、死者蘇生魔法の魔導理論を教えられた。

そして、今もその方法を覚えている。

…つまり、死者蘇生魔法の使用は可能だということだ。

…俺は、ごくりと生唾を飲み込んだ。

…気軽に返事をして良い話題じゃないぞ。これは。