こいつはまた、一人で全部抱えようとしやがって。

またシルナの悪癖が出たな。

「お前一人の責任じゃない。俺達全員の責任だ」

シルナだけじゃない。俺も、ナジュや天音やイレースや、マシュリ本人でさえも。

油断していた。これほど神竜族が迅速に動くとは思えなかった。

奴らがいずれ、マシュリに裁きを下す為に再び現世に現れるであろうことは、充分予測出来たはずなのに。

もっと先のことだと思っていた。当面は…それよりも、ナツキ皇王との、アーリヤット皇国との諍いを解決することが最優先だと。

何が最優先だよ。

マシュリの命を守ることこそ、最優先じゃなかったのか。

…その油断が、命取りとなった訳だ。

情けない。不甲斐ない自分に腹が立つ。

ごめんな、マシュリ。

救えたはずなのに。シルナの言う通り、俺達がもっと…ちゃんとしていれば。

今もマシュリは…俺達と同じ場所で、生きていられたはずなのに。

「マシュリ君はきっと、私のことを恨んでいるだろうね」

「馬鹿らしい。マシュリは誰も恨まないよ」

「…そうかな」

あぁ、そうだね。確信を持って言ってやる。

マシュリは決して、シルナを恨んでなどいない。俺のことも、他の仲間達のことも。

それより、自分以外の仲間が無事で良かったと思っているはずだ。

そういう奴だ。マシュリは。

本人に聞いた訳でもないのに、何でそう思えるのかって?

…決まってるだろ。

もし殺されたのが俺だったら、同じように思うはずだから。

「マシュリの犠牲を…決して無駄にしちゃいけない。これ以上…」

「…うん、分かってる」

「…その上で、俺達も選ばないとな」

「…うん、そうだね」

昼間は、ナジュが途中退席したこともあって、保留にしておいたが。

俺達には、二つ選択肢がある。

何の選択か、って?

…マシュリの仇を討つか、それとも全て諦めて、泣き寝入りするかのどちらかだ。

「羽久は…どう思う?マシュリ君の仇を…討ちたいと思う?」

「…それは…」

…正直に言おう。

ほんの半日ほど前までは、仇討ちする気満々だった。

このままじゃマシュリが浮かばれない。無念のうちにこの世を去ったマシュリから、命を、未来を奪った奴らが許せない。

同族であるはずなのに、マシュリの存在を認めず、マシュリを群れからも冥界からも追い出し。

化け物と罵り、半端者と詰り、挙げ句の果てにマシュリを裏切り者と称して、処刑した…。

許せると思うか?

仲間を奪われて。殺されて…。納得出来ると思うか?

あの無惨なマシュリの亡骸を思い出す度に、胸が千切れそうな思いになる。

…とてもじゃないが、俺には許せそうにない。

マシュリの無念を晴らしたい。仇を討ちたい。

それはマシュリの為でもあり…俺がマシュリの死を乗り越えて、また前を向いて生きていく為に。

…だけど、今は。

更に半日経って、こうして、不自然なほど静かなシルナを見ていると。

不思議なくらい、復讐心が薄れてしまった。