――――――…天音が俺とシルナを呼びに来た時。

深夜にも関わらず、俺はシルナと共に、学院長室にいた。

いつもなら眠っている時間なのだが…。とてもじゃないが、眠れる気がしなかった。

昨日、夜中に令月達に起こされてからというもの、一睡もしていないし、何なら座って休むこともしていない。

それなのに、疲れるどころか、頭の中が冴え渡っていた。

そして、それは俺だけではない。

「…羽久。少し休んだ方が良いよ」

シルナが、俺にそう言った。

今は一人にならない方が良い、という令月の助言に従い。

俺は、シルナと行動を共にしていた。

同じように、天音はナジュと、令月はすぐりと。

イレースは女性なので、聖魔騎士団から応援に来てくれたシュニィと一緒にいるはずだ。

…で、それは良いとして。

シルナの奴、今俺に休めって言った?

「一日中動きっぱなしで、疲れたでしょ。休んだ方が良い」

「それはお前もだろ?」

自分だって同じくらい動きっぱなしの癖に。

それどころか、シルナは昨日の夜からずっと。

一口も、大好きなチョコレートを口にしていないのだ。

一大事だぞ、これは。

シルナからチョコレートを取り上げたら、半日足らずで禁断症状が出る、と言われているのに。

今のところ、禁断症状が出ている様子はない。

つまり、現在シルナの身体は、平常運転から程遠い状態にある訳だ。

「お前も休めよ。今日のチョコはどうした?」

糖分の摂取は大事なんじゃなかったのか。

しかし。

「あ、そうか…。そういえば、今日は全然食べてないね…」

チョコのことを忘れていたなんて。これは本当に一大事だ。

「お前…本当にシルナか…?」

チョコを忘れるなんて、それ本当にシルナか?お前、本当にシルナだよな?

神竜バハムートがシルナの振りしてる訳じゃないよな?

「羽久が…私に失礼なこと考えてる気がするなぁ…」

「シルナがシルナらしからぬことを言うからだろ」

チョコと言えばシルナ、シルナと言えばチョコ、ってくらい。

餓鬼のように、毎日チョコレートを貪り食ってるのに。

そんなシルナが、チョコを忘れるくらい思い悩んでいる。

…まぁ、そりゃそうだよな。

気持ちは分かるよ。…俺だって、とても平静ではいられないから。 

俺達の心の中を占めているのは、勿論…マシュリのことだった。