…リリスとの会話を終えて、精神世界から現実世界に戻ると。

「…ん…」

「あっ…。ナジュ君…」

「…ん?」

目を開けると、そこには天音さんが座って、僕の顔を覗き込んでいた。

「…おはようございます」

「おはよう、ナジュ君。…って言っても、今は夜中だけど…」

僕が自分の部屋に逃げ帰ってきてから、もう半日以上経っていたのか。

精神世界の時間の流れは、現実世界のそれとは異なっているから、仕方ない。

長話でしたしね。リリスの話。

好きな女の子とのおしゃべりは、ついつい時間が経つのを忘れてしまう。そういうものです。

「待ってたんですか?…ずっと。僕が起きるの…」

「うん。ナジュ君、様子が変だったし…。今は一人にならない方が良いと思って」

それで、精神世界の中に旅立っている僕の傍らで、ずっと戻ってくるのを待ってた訳ですか。

どうせ僕は不死身なのだから、放っておいたとしてもどうってことないと思うんだが…。

お人好しの天音さんにそんなこと言っても、絶対出て行ったりはしないと思うけど。

「…ナジュ君、今、どうせ自分は死なないんだから一人でいても構わないのに、とか思ってる?」

ぎくっ。

「天音さん、あなた…。いつの間に読心魔法を…?」

僕の真似ですか。それは聞き捨てなりませんね。

読心魔法は僕の専売特許であって、例え天音さん相手でも譲ることは出来ませんよ。

「読心魔法なんて使えなくても分かるよ…。僕はナジュ君の友達だからね」

「そうですか…」

「確かに、犯人…冥界の神竜族は…マシュリさんを粛清するという目的を果たしたけど…」

「…」

「マシュリさんだけじゃない。マシュリさんを庇った僕達も粛清の対象になるかもしれない。いつ、また襲撃があるか分からない…。用心はしておくべきだよ」

と、天音さん。

…神竜バハムート。に、よる粛清…。

…そう。天音さん達は、そう思っているんですね。

「しばらくの間、聖魔騎士団からも応援を呼んで、襲撃に備えるようにするって学院長先生が…」

「…そういう話し合いをしたんですか?僕が精神世界に意識を飛ばしてる間に?」

「うん…。エリュティアさんが探索魔法で調べてくれて。探索魔法で辿れる『痕跡』は何もなかったから、犯人は冥界の魔物で間違いないだろうって」

…。

…まぁ、普通に考えたらそうなりますよね。

「それで…その…。マシュリさんの…お葬式とか、何処に埋葬するかとか…。日を改めて、また話し合おうって…」

「…ちょっと待った」

「え?」

お葬式?埋葬?…困りますね。早まったことをされては。

「まだ埋葬は早いですよ」

「え…。いや、でも…。…うん、気持ちは分かるよ。まだお別れしたくないもんね…」

いや、そういう意味じゃなくて。

確かにお別れもしたくないですけどね。

「だけど…ちゃんと眠らせてあげないと可哀想だよ。マシュリさんをあの世に送って…」

「困るんですよ。マシュリさんが生き返って戻ってきた時、肉体が火葬されてたら魂の戻る場所がなくなるでしょう?」

「…えっ?」

これには、天音さんもぽかんだった。

…まぁ、無理もない。