「私はナジュ君に、危険を犯して欲しくないんだよ。マシュリ君に続いて、ナジュ君にまで何かあったら…。私、もう生きていけない」

「…」

「守らせてよ、ナジュ君のこと。…お願い、もうマシュリ君のことは諦めて。これ以上は、人間が踏み入って良い場所じゃないの」

リリスは切実な表情で、僕に懇願した。

…よく分かりました。

僕も男ですからね。…好きな女の子にここまで言われて、なおも食い下がることは出来ない。

それに何より、リリスが真剣に僕のことを思って言ってくれているのは、痛いほど伝わってきた。

「マシュリ君だって…自分のせいでナジュ君や皆が危険に晒されることは、望まないはずだよ」

この一言が、トドメみたいなものだった。

おっしゃる通りだ。

マシュリさんはきっと、僕達がマシュリさんの死の真相に近づく為に、自らの命を危険に晒すことを望まないだろう。

僕達が危険な思いをするくらいなら、自分のことなど今すぐ忘れてくれ、と言うはずだ。

そういう人だった。…いつだって、自分よりも他人を優先する人だった。

「…説得が上手いですね、リリスは」

「…!じゃあ…」

「えぇ…。無理矢理聞き出すのは諦めます。もし話したくなったら…話しても良いと思える日が来たら、いつか話してください」

「…!うん、分かった…」

リリスは心底ホッとしたように頷いた。

その表情も素敵ですね。…リリスには、と言うか好きな女の子には、いつも笑っていて欲しいと思うのが男の性。

リリスが嫌がっているのに、無理矢理隠し事を聞き出すなんて無粋な真似は、男の風上にもおけない。

…百も承知ですよ。そのことは。

…で。




…僕が本当に、それで納得すると思いました?




「ありがとう、ナジュ君。分かってくれて…。えっ」

僕はリリスの両手を、ガシッと掴んだ。

…捕獲完了。