リリスの、この後ろめたそうな、何かを隠しているような表情。

間違いなく彼女は、僕達の知らない何かを知っている。

リリスには、読心魔法が通用しない。

だから僕は、何としても彼女を説得して、彼女の隠し事を聞き出さなければならないのだ。

「教えてください…。何を隠しているのか」

「…何も…。ナジュ君が知らなきゃいけないことは、何もないよ」

その含みのある言い方。

つまりリリスが隠しているのは、僕が知る必要のないことという訳か。

だから隠しているんですね。

「知る必要のないことでも構いません。それで仲間を助けられるなら」

「ナジュ君…」

「…お願いです。仲間のことなんです」

今頼れるのは、リリスしかいない。

リリスが教えてくれなければ、僕に出来ることは何もない。

諦めたくないのだ。…まだ。

「何か隠してますよね。マシュリさんのこと…」

「そんな…隠し事なんて、何も…」

「甘いですね。僕が分からないと思いました?」

何せ、好きな女の子のことですから。

マシュリさんの亡骸を目にしてからずっと、僕を通して同じものを見ているリリスが、ずっと動揺しているのを感じていた。

「何を知ってるんですか。あなたは知っていてもおかしくありませんよね」

リリスは『冥界の女王』と呼ばれる魔物であり。

まだ冥界にいた頃から、人間とケルベロスのキメラであるマシュリさんと、親交があった。

冥界時代のマシュリさんのことを知っているのは、同じくその頃冥界にいたリリスくらいだ。

「教えてください…。マシュリさんの身に何が起きたんですか。あなたは、何を隠してるんですか…?」

「…ナジュ君…。…ナジュ君は知らない方が良い。知ったってどうすることも出来ないんだよ」

やっぱり、隠し事をしていたのは認めるんですね。

リリスは困ったような表情で言った。

好きな女の子を困らせたいのは、ちょっとした悪戯心みたいなものだけど。

さすがに今は、悪戯心では済まない。僕は至って本気である。

「構いません。それを知った上でどうするかは、僕が考えて決めます」

「だから嫌なんだよ…!知ってしまったら、ナジュ君はきっと…。また、自ら危険に身を晒すことになる」

…あぁ、やっぱりそういうこと。

リリスが僕に隠し事をするのは、僕を危険から守る為。

…そんなことだろうと思いました。

「ありがとうございます。…僕の為に、黙っててくれたんですね」

「そうだよ。人間は知らない方が良いの。…マシュリ君のことは可哀想だけど…。もう、ナジュ君に出来ることは何も…」

「じゃあ、教えてください。リリスの隠し事」

「…。ナジュ君、私の話聞いてた?」

聞いてますよ。あなたの言葉はいつだって、一言一句余さずに聞いてます。

「危ないんだってば。物凄く危ないの。人間が首を突っ込んじゃいけないんだよ」

「だから、仲間が殺されても黙って、指を咥えて見ていろと?」

「それは…仕方のないことだよ。残酷なようだけど…それが、マシュリ君の運命だったんだよ」

運命。運命ね。

随分と残酷な運命じゃないですか。

そして、くそったれな運命ですよ。

こんなところで、真相が深い闇の中に閉ざされたまま終わるのが、マシュリさんの運命だなんて。

そんなこと、断じて受け入れてなるものか。