…大丈夫か?

なんか、無を眺めてるみたいだけど…。

「ナジュ君、大丈夫?」

天音も気づいたのだろう、ぼんやりと立ち尽くすナジュに声をかけた。

しかし、ナジュは答えず無反応のまま。

…本当に大丈夫か?

「ナジュ君。ナジュ君、しっかりして」

「…え。あ、はい。何ですか」

天音に肩を揺さぶられて、ようやく我に返ったらしい。

「大丈夫?…何だか顔色が悪いよ」

「あ、いえ…。別に…」

「無理しないで。…辛いなら、部屋で休んでても良いよ」

無理もない。

突然こんなことになって、誰だって動揺して、具合が悪くもなる。

「いえ…。それは、大丈夫なんですけど…」

「…けど…?」

「…済みません。やっぱり、大丈夫じゃないかもしれません」

えっ…。

「ちょっと…済みません、学院長。失礼しても良いですか?」

「それは構わないけど…。大丈夫?ナジュ君。医務室で休んだ方が…」

「いえ、それは大丈夫です。…自分の部屋で、ちょっと休んできます」

…おい。本当に大丈夫なのか?

顔色が悪い。

「不死身先生。今は一人にならない方が良いんじゃないかな」

「平気ですよ。僕はその名の通り、不死身ですから。忘れました?」

令月の忠告に、ナジュは口元だけ笑ってそう答えた。

そりゃ、ナジュが不死身なのは知ってるけど。

不死身なのは肉体だけであって、その魂は、精神は決して不死なんかじゃないってことを。

これまでの経験から、嫌と言うほど思い知らされてるんだが?

…しかし。

「こんな時に済みません。…少し休んだら、また戻ってきます」

これ以上、余計な詮索も追及もされたくないとばかりに。

ナジュは一方的に、そう言い残すなり踵を返し、空き教室を出ていった。

「…なんか、ナジュせんせー様子が変だね」

「あぁ…。変だったな」

そりゃこんな状況なのだから、誰だって様子がおかしくもなるが…。

「ナジュ君は…自分の命には無頓着なのに、他人の痛みには敏感な人だから」

この中で、誰よりもよくナジュのことを知っている天音が、ポツリと呟いた。

「それに、辛い時に素直に辛いって言えないから…。平気な振りをしてるけど、きっと凄く傷ついてるんだと思う」

「…あいつ、素直じゃないもんな…」

さすが天音。よく分かっていらっしゃる。

あいつのことだから…自分のせいじゃないのに、自分のせいだと自分を責めてそうだ。

シルナと同じだな。何でも自分のせいにしなきゃ気が済まない。

誰の責任でもないのに。

強いて責任を問うなら、ここにいる、俺達全員にある。

誰か一人が背負う必要はないのだ。

そして、マシュリも…きっと、自分が殺されたのは俺達のせいだ、とは言わないはずだ。

あいつもまた…自分より、他人を大切にする…優しい奴だったから。

「天音君。後でナジュ君の様子を見に行ってあげてくれる?」

「はい。分かりました」

シルナが、天音に頼んだ。

いくらナジュが不死身だろうと、令月の言う通り、今は誰も、出来るだけ一人になるべきではない。

少なくとも、二人一組は心掛けるべきだろう。

…でも…。

「ナジュ…大丈夫だと良いけど…」

ズルいよな。あいつは俺達が何を考えているのか、すぐさま見通す癖に。

あいつが何を考えているかは、俺達には推し量ることしか出来ないんだから。

また、一人で背負い込んで思い悩んでいなきゃ良いが…。