俺だって、そう信じたい。

だけど…。

「そう言える根拠は?信じたいから、は証明にならないよ」

令月は相変わらず、シルナ相手でも容赦なく厳しい言葉をぶつけた。

心に突き刺さるようだ。

「この中に犯人なんていない。羽久も、イレースちゃんもナジュ君も、天音君も令月君も、すぐり君も…そして私も、マシュリ君を手に掛けたりなんかしない」

それでもシルナは、怯まずに同じことを繰り返した。

「何で、そう言い切れるの?」

「信じたいから、じゃないよ。私がそう確信してるから。例え脅されたとしても、仲間を手に掛けたりしない」

「…」

…そうだな。

俺だったら、脅されたって、マシュリをあんな風に…殺すなんて、絶対に有り得ない。

きっと、ここにいる誰もが同じように思っているはずだ。

マシュリを…仲間を手に掛けるくらいなら、自分の命を差し出した方がマシだ、と。

「…学院長の根拠のない希望論はさておき、我々が誰にも気づかれずにマシュリさんを殺害することは、現実的に考えて難しいでしょうね」

シルナを支持する…訳ではないが。

イレースは、シルナとはまた別の観点から、俺達の中に裏切り者がいないことを証明しようとした。

「…どういうことだ?」

「考えてもみなさい。聖魔騎士団でも手に余る、それどころか冥界の魔物でさえ、簡単に手出し出来ないあのドラ猫を、どうやってあれほど一方的に殺害するのです」

ドラ猫って言ってやるなよ。

でも…イレースの言うことは最もだ。

俺達の中に犯人がいるとして。

一体誰が、マシュリを殺すことが出来るのだ?

用事があるからと夜中に誘い出して、油断させたところをグサリ…。というのが常套手段だが。

人の殺気や敵意には、令月達と同じくらい…いや、ある意味でそれ以上に「敏感」なマシュリが。

そう簡単に油断するとは思えないし、仮に油断したからといって、マシュリほどの実力者を、どうやって殺すんだ?

アーリヤット皇国のマッドサイエンティスト相手でも、竜の炎で灼き尽くされるくらいなのに。

少なくとも、俺は無理だ。

マシュリを相手にしろと言われたら、泣いて逃げ出す。

絶対勝てない。勝てるビジョンが見えない。不意打ちも成功する気がしない。

仮に策を弄して、何とか勝てるとしても。

無傷じゃ無理だ。

死にたがりのナジュと違って、マシュリだったら、殺されそうになったらそれなりに抵抗するだろうし。

「僕だって、仲間の手にかかって死ぬのは嫌ですよ?」

「あぁ、そうかい」

今考えてるところだから、口を挟むのやめてくれないか。

もしマシュリの抵抗を受けたなら、こちらもそれなりにダメージを受けているはずだ。

でも、この中の誰一人、負傷している様子は全くない。

「…令月、すぐり。現場を最初に見た時、どうだった?マシュリに抵抗したような痕跡はあったか?」

念の為に、俺は令月達に尋ねた。

もしマシュリが本気で抵抗したら、犯人だってタダでは済まなかったはずだ。

「ないね。抵抗した痕は全くない」

「俺も保証するよ。一方的に殺されたみたいだね」

令月もすぐりも、きっぱりと言い切った。

…じゃあ、考えられる可能性は一つ。

犯人は、マシュリでさえ、手も足も出ない相手だったのだ。

その犯人に、マシュリは一方的に殺されたのだ。…恐らく、ろくに抵抗することも出来ず。

この世の一体誰が、マシュリにそんなことが出来るんだ?

全くもって、犯人の見当がつかなかった。