「ナジュ君から見て、この中に隠し事をしている人はいる?」

非常にあけすけな質問である。

だが、この際はっきりさせるのは悪くない。

無意味に疑い合いたくはないからな。

「心の中を覗くことは出来ますよ。僕の手にかかれば、誰一人隠し事は不可能です。…でも…」

「…でも?」

「…それ、万が一僕が犯人だったとしたら、僕の証言に何の意味もないですよね」

「…あっ…」

…そうだった。

ここにいる全員に容疑がかかっている状況なのだ。ナジュとて例外ではない。

ナジュは俺達の心を読めば、俺達が嘘をついているかどうか、すぐに見抜くことが出来るが。

俺達は、例えナジュが嘘をついていたとしても、それを見抜く方法がないのだ。

となると、ナジュの言葉の信憑性が問題になって…。

…結局、誰のアリバイ証明にもならないのだ。

ややこしいことになってんな。

「それに、僕はその人が考えていることしか分かりませんから。もし、誰かが何者かに操られていたり、洗脳されているとしたら…」

「あぁ…確かに…」

「自分でも分からないうちに犯行に及んでるんじゃ、それこそ手のうちようがないですね」

そうか。その可能性もあるんだよな。

むしろ、その可能性の方が高いんじゃないか。

誰が自分の意志で、明確な殺意と敵意を持って、マシュリを手に掛けるだろうか。

もし仲間のうちの誰の犯行なのだとしても、それは誰かに操られていたり、洗脳されたり。

あるいは、何者かに脅されて…犯行を強要されたに違いない。

「この状況じゃ、僕の言葉の信憑性を保証することは出来ませんが…。少なくとも僕が見た限り、この中に裏切り者はいません」

ナジュは、はっきりとそう言った。

…つまり、犯人はここにいない別の人間だ、と。

「…信じて良いんだよな?ナジュ」

「はい、とは言えませんね。僕も元々は敵側の人間だった訳ですし。怪しいのは誰でも同じでしょう」

そうか。でも俺はお前を信用するぞ。

この中の誰も疑ったりしない。…仲間だからな。

そんな俺の心の中を読んだナジュが、ぽつりと一言。

「…存外、甘い人ですね。羽久さんって」

うるせぇ。

互いに疑い合って、疑心暗鬼に陥るよりマシだ。

もういっそ、疑い合うのやめないか?

こうして俺達が味方うちで揉めることこそ、犯人の手のひらの上のような気がする。

「どーする?お互い二人一組になって、監視でもし合う?」

「それ、その二人がグルだったら意味ないよね」

「じゃ、5人組みたいに全員で見張りし合う?俺達7人だから…7人組?」

多いな。

常に7人揃って見張り合うって、相当大変だぞ。

でも、お互いの身の潔白を証明する為、そしてお互いを守り合う為には、そうするしかないのかもしれない。

これ以上の犠牲を出さない為なら、何だってやるつもりだった。

…しかし、シルナは首を横に振った。

「…監視し合う必要なんてないよ。この中に犯人なんていないから」

「…シルナ…」

「この中に、犯人はいない」

シルナは同じことを、二度繰り返して言った。