途端に、部屋の中の空気が凍った。

…嘘だろ?

ただでさえ、信じられないような深いショックを受けているのに。

更に、仲間同士で疑い合わなきゃいけないのか。

冗談じゃないぞ。

「な…仲間を疑うのはやめようよ。仲間内で揉めてる場合じゃないでしょ?」

と、シルナが言うも。

「何で?味方内に犯人がいるなら、それこそ悠長なことやってる場合じゃないよ」

「不穏分子はすぐに叩かないと、今に次の犠牲者が出るよ。早めにはっきりさせた方が良いよねー」

令月とすぐりの意見は、非常に厳しく、そして現実的だった。

さすがは元暗殺者といったところだろうか。肝が据わってる。

だけど…俺は、二人のようには考えられなかった。

仲間を疑いたくないのは、誰だって当然だろう?

「かく言うあなた方も、アリバイは何もない訳ですが。自らの無実をどう証明するつもりです?」

と、イレース。

そ、そんな第一発見者が一番怪しい、みたいな。

確かに第一発見者は疑われやすいが、実際第一発見者は無罪であることの方が多いのでは?

「まー、そーだね。俺は自分と『八千代』が無実だって知ってるけど」

「僕も『八千歳』が無実なことを知ってるけど、証明出来ないもんね」

如何せん、皆自分の部屋で一人で寝ているところを、令月とすぐりに起こされたのだ。

この中で、犯行推定時刻にアリバイのある人間はいない。

「そんな…。仲間同士で争ってちゃいけないよ。仲間を疑うような真似、僕はしたくない」

天音は断固として、今この場で犯人探しをすることを拒んだ。

その気持ちはよく分かる。俺だって同じ意見だ。

だが…。

「したいとかしたくないとかは関係ないでしょ。事実として、既にマシュリは殺されてるんだから」

「…!」

「失った命は戻らない。なら僕達に出来ることは、彼の犠牲を無駄にしないこと…。決して二人目の犠牲者を出さないことだ」

天音の感情論を、令月が真正面から一刀両断した。

…こういう時の令月とすぐりの言葉は、重みが違うな。

「…でも…仲間同士で疑うなんて…」

それでも、心根の優しい天音は、なおも味方を疑うことを躊躇していた。

「…そうだ、ナジュ君なら」

「…」

「ナジュ君なら分かるんじゃないの?僕達の…心の中を覗けば」

天音が、ナジュの方を振り向いた。

あ、そうか…。

ナジュの読心魔法を前に、何人たりとも嘘はつけない。隠し事も出来ない。

だが、ナジュは天音に話を振られても、心ここにあらずといって様子でボーッとしていた。

…大丈夫か?

「ナジュ君?…どうしたの?」

「…え。はい?」

ようやく天音に声をかけられていることに気づいたらしく、ナジュが我に返った。

「だから…ナジュ君なら、この中に犯人がいるかどうか分かるんじゃないか、って…」

「あぁ、はい…。それはまぁ…」

…何だ。その煮え切らない返事は。

気丈に振る舞ってるように見えて、ナジュは意外と…仲間思いなところがあるからな。

特に、マシュリは…。ナジュにとって…と言うより、ナジュの中にいるリリスにとって…親交の深い相手だった。

俺達以上に、ショックが大きいのかもしれない。