令月と共に、俺は「現場」である園芸部の畑に向かった。

外はまだ暗かったが、夜明けが近いのか、少しずつ朝の気配が漂っていた。

でも、そんなことはどうでも良かった。

何かの間違いであって欲しい、と心の底から願いながら、現場に向かった。

校舎裏にある畑までの距離を、これほど遠く感じたことはなかった。

現場に辿り着くと、既にそこに、イレースと天音、それからナジュが先に駆けつけていた。

多分、すぐりに呼ばれて来たのだろう。

そして、そこに立ち尽くす彼らの表情を見て、全て間違いであって欲しいという俺の願いは、砕けて消えた。

イレースとナジュは、非常に硬い表情で「それ」を見下ろしていた。

天音はその場に膝をついて、肩を震わせて嗚咽を漏らしていた。

3人の視線の先にあるのは、真っ赤に染まった…。

「…マシュリ…」

俺も「それ」を見つけて、思わずその場に立ち尽くした。

まるで、地面に釘付けにされたかのように。

銀色の剣が7本、マシュリの身体に突き刺さっていた。

身体から力が抜けて、俺もその場に膝をついてしまった。

天音のように、涙は出てこなかった。

ただ、何も考えられなかった。全部夢の中の出来事みたいだった。

夢じゃない。現実だって分かっているのに。

脳みそが、目の前の状況を現実だと認めたくないのだ。

だって、そうだろう?

何でマシュリがこんな目に?何でマシュリが…。

…こんな風に、何も言わずに一人で…先に逝かなければならないんだ?

有り得ないだろう、そんなこと…。

…地面に膝をついたまま、しばしそのまま放心していると。

「…羽久…!」

聞き覚えのある声がして、俺は魂が抜けた状態のまま振り向いた。

するとそこには、すぐりに伴われ、血相を変えたシルナが駆け付けてきた。

…あぁ、シルナ…。

「す、すぐり君に呼ばれて。一体、何が…」

「…これですよ」

ナジュが、手振りで示した。

目の前にある、マシュリの亡骸を。

「…!」

「それ」を見た途端、シルナはその場に立ち尽くし、言葉を失った。

…そうなるよな。分かるよ。

俺なんか、膝から力が抜けて立ち上がることも出来ない。

夢なら覚めてくれてよ、ってずっと思ってる。

夢じゃないってこと、分かってるはずなのにな。

「…マシュリ君…」

シルナは、既に息をしていないマシュリの名前を呼んだ。

俺だけじゃない。
 
この場にいる全員、第一発見者である令月とすぐりにとって。

イレースにとって、ナジュにとって、天音にとって、シルナにとって。

そして、このルーデュニア聖王国にとって。

「それ」は、これから俺達に訪れる、長い悪夢の始まりだったのだ。