「我々は正義の執行者であらねばならない。裏切り者をのさばらせていてはならない。神の代理人たる我々が、正義を行うのだ」

その通りだ。

仲間の言うことは何も間違っていない。私も同じ意見だ。

…でも、その直接的なやり方には賛同出来なかった。

「私達が直接手を下すことは出来ません。それは不可能です」

「何故?」

「私達は、まだ力が戻っていません」

主の力が、器の中に深く封じられているせいだ。

このままでは、いくら時が経とうとも、私達の力は回復しない。

主が力を取り戻さなければ、私達もまた、力を取り戻せないのだ。

しかし、大切な主の器が、敵の手に落ちている今。

私達が以前のような力を取り戻すことは、今のところ絶望的だった。

そのような不完全な状態で、どうして裏切り者に直接裁きを下せようか。

「不完全な力で、裏切り者と戦って勝てるでしょうか」

「なんと弱腰な…!あなたは誰よりも崇高な、神の使者であるべきだ。何故反対する?」

「例え不完全であろうとも、主の加護を受けた我々の力が、薄汚い裏切り者に劣るとでも?」

そうだ、と私は言いたかった。

今の私達では、裏切り者に粛清を与えるどころか。

返り討ちに遭って、余計に裏切り者にとって有利な状況になってしまう。

それだけは、避けなければならなかった。

「危険を犯すべきではないと言っているのです。正義を執行出来るのは、私達しかいません。その私達が、万が一にも、裏切り者の前に敗れるようなことがあっては…」

「つまりあなたは、我々が裏切り者に敗北すると思っているのか」

「…」

…それは。

…いや、認めなければならないだろう。

正しく敵の力量を測らなければ、足元をすくわれてしまう。

「今の私達では、確実に勝てるとは言い切れません」

「…!」

「力を取り戻さなければ、直接裏切り者を粛清することなど出来ません」

故に、私の意見は変わらない。

「ならば…どうしろと?まさか、これまで通りケチなやり方で、蒔いた種が芽吹くのを祈りながら眺めているしかないと言うのか?」

「そうです」

それが一番確実な方法なのだ。

直接戦って勝つことが出来ないなら、例えどれほどの時間がかかっても、間接的な手段を用いるしかない。

…しかし、仲間達は。

「馬鹿なことを。我々が目覚めてから、あなたの提案通り我々は幾度も、その方法で種を蒔いてきた。いくつも」

「…」

「しかし、その種が芽吹いたことが一度でもあると?全て、花が咲いて結実する前に、裏切り者の手先によって摘み取られている」 

…それは。

「今回もそうだ。一国の国王を神の代理人に仕立てあげ、裏切り者に接触させた…。それでどうなった?」

「…」

その結果は、火を見るより明らかである。

結局、上手く行かなかった…いつも通り。

私達の思惑は、ずっと外れてばかりいるのだ。

「つまり、そのやり方では駄目なのだ。最早人間などに頼ってはいられない。我々が正義の鉄槌を…」

「いけません」

それでも私は、強硬な仲間の提案を退けた。