そうか。おせち、美味しいもんな。

作るのは大変だけど、あれを食べなきゃお正月って気がしない。

最近は、食料品店で簡単に、出来合いのおせちが手に入るけど。

やっぱり、家庭で作ると、家庭の美味しさがあるよな。
 
是非とも子供達に継承したい、おふくろの味って言うか。

だから、作りたくなる気持ちは、まぁ分からなくもない。

しかし、ベリクリーデは何か大きな勘違いをしている。

「…知ってるか、ベリクリーデ。おせちって食べ物なんだぞ」

「ほぇ?」
 
「だからな、庭じゃなくてキッチンで作るものなんだ」 

お前は畑を耕して、一体何処から作り始めるつもりだ?

金時人参やゴボウや黒豆を、イチから作るつもりなのか。

今から作り始めて、食べられるのは一体何年後の正月になることか。

そこまでしなくても。今は便利な時代なんだから。

材料くらい、スーパーで買ってきて作れば良いじゃん。

普通に売ってるだろ。何なら完成形をそのまま買ってきて食べても良し。

それなのに、ベリクリーデは。

「そうだよ。おせちは食べ物だよ?」

そのくらい知ってる、と言わんばかり。

は?いや分かってないじゃん。

「畑でイチから野菜を作るつもりか…?」

趣味なの?家庭菜園。

それは良い趣味だと思うけど、やるなら隊舎の庭じゃなくて。

市民農園とか借りて作れよ。誰が公共の場を勝手に畑にしてるんだ。

シュニィに言いつけるぞ。…冗談だけど。

「?ううん。おせち作ってるんだよ?」

「え?いや…。野菜…」

「…?…??」

「…」

…何だろう。ごめん。

絶望的に、話が噛み合ってない気がする。

俺が何かを誤解しているのか、それともやっぱりベリクリーデが誤解してるのか?

「…一応聞いておくが、今は何のおせち料理を作ってるんだ?」

俺は、質問の仕方を変えてみることにした。

ほら、おせち料理ってさ、地方によって結構味付けとか、使う材料とか、違ってくるじゃん?

何なら家庭によっても様々。

だからもしかしたら、ベリクリーデの実家(?)では、畑で作れる謎のおせち料理があったのかもしれない。

世界は広いし、文化は多様だからな。そういうこともあるかもしれないじゃないか。

そこで、念の為に尋ねてみた訳だ。

するとベリクリーデは、相変わらずのドヤ顔で答えた。

「あのね、たつくり、って言うの」

「…は?たつくり?」

「おせち料理なんだよ」

ドヤ。
 
…たつくり…たつくり…。

…それってもしかして…田作りのこと?

その瞬間俺は、ベリクリーデが一体何をどういう誤解をしているのか理解した。