大体、その鍬は何処から持ってきた。

すーぐ怪しげなものを見つけてきては、珍妙なことをするんだから。

油断も隙もない。

「今日は一体何をやってるんだ?この寒い時期に、花でも植えるのか」

こんなに寒くちゃ、地面も固まって掘りにくいだろう。
 
と思ったけど、ベリクリーデは無駄に馬鹿力なので、冬の硬い土でも鍬が通っていた。

数回掘り返しただけなのに、黒い土が姿を表している。
 
こういう時だけ仕事が早いのやめろ。

冬に植える花って言ったら…パンジーとか、サイネリアとか…カレンデュラとか?

しかし、そのような花の苗や種は、ベリクリーデの傍にはなかった。

ただただ、意味もなく鍬で土を掘ってるだけ。

…これ、本当に何やってんの?

「今日?これはねー、えへへ」

照れるな。

照れる要素あったか?なぁ。

「私、おせちを作ってるんだよ」

ドヤッ。

…何だろう。事情を説明してくれてるんだと思うけど。

全く意味が分かりません。

…おせちって何?

いや、知ってるはずなんだけど。俺の辞書に載ってる「おせち」と、ベリクリーデの辞書に載ってる「おせち」は、意味が違う可能性がある。

ベリクリーデは、ベリクリーデ独自の言語、ベリクリーデ語を使うからな。

一般人とは使ってる言葉が違うんだよ。

ベリクリーデ語の「おせち」は、果たしてどういう意味なのだろうと考えていると。

「…あれ?そっか、ジュリス、おせちを知らないんだね」

は?

「大丈夫だよ。ジュリスでも、知らないことくらいあってもおかしくないよ。そんなに落ち込まないで」

「ちょっと待て。違う。俺は別に言葉の意味が分からなくて落ち込んでるんじゃねーよ」

お前に分かって俺に分からないことがあったら、俺は恥ずかしさのあまり切腹する。

「おせちっていうのはね、ジュリス。お正月に食べる料理のことなんだよ」

ドヤッ。

そんなドヤらなくても知ってるっつーの。

やっぱり、俺の知ってるおせちと同じだったか。

正月料理だよな。おせち。

今は年末だし、丁度おせちを作る時期とも合致している。

俺は今年、作る予定はないけど。

…で、このベリクリーデは何をやってるんだ?

真面目に、誰か説明して欲しいんだけど。

「…ベリクリーデ。お前は何やってるんだ?」

「おせち。作ってるの」

「…ふーん…」

やっぱりそうなのか。

「もう一回改めて聞くけど、何やってるんだ?」

「??おせち作ってるんだよー」

…あ、そう。

2回聞いたら返答が変わるかと思ったけど、やっぱり変わらなかった。