あの馬鹿は、寒かろうと年末だろうと、大人しくしているということを知らないらしい。

いつも通りで何より。

って、安心してる場合かよ。

「あいつ…今度は何処で何をしてるんだ?」

俺がちょっと目を離したらこれだよ。

どうしたら良いの?あいつ。いっそもう、毎日幼稚園に預けようかな。

精神年齢年長さんくらいだし、案外行けるんじゃね?

「そ、それが…聖魔騎士団隊舎の庭で…」

「落とし穴でも掘ってるのか?」

「…鍬を振るってます」

冗談のつもりで言ったのに、あながち間違ってなかったことにびっくり。

一体何をやってんだあいつは。

イーニシュフェルト魔導学院の暗殺者みたいに、畑でも耕してんのか?

とにかく、何にせよ、止めなくては。

「分かった。ちょっと…止めてくる」

「お、お願いします」

こうして、今日も俺の仕事は邪魔されるんだな。

マジでもう。ベリクリーデのお世話代を給料に入れてくれないと割に合わないぞ。

俺は執務室を出て、聖魔騎士団隊舎の裏庭に向かった。

すると、そこにいた。

「よいしょー。よいしょー」

ドスッ、ドスッ、と地面に鍬を突き刺しているベリクリーデと。

そんなベリクリーデを、心配そうな顔で遠巻きに見つめる数人の聖魔騎士が。

彼らもきっと、これは絶対ヤバいと感じているに違いないが。

一応ベリクリーデは魔導部隊大隊長の一人であって、彼らにとっては上司に当たる。

だからこそ、突っ込みたくても下手に突っ込めないのだろう。可哀想に。

その役目は俺がやるから。

「大丈夫だ。俺が何とかする」

「じゅ、ジュリス隊長…」

「良いから。任せてくれ」

そう言うと、ベリクリーデを心配して遠巻きに眺めていた聖魔騎士達は、安心したようにこの場を去っていった。

ふぅ。やれやれ。

…それじゃ、改めて。

「ざっくざっくー。ざっくざくー」

「こら、ベリクリーデ!」

「ひゃうっ」

後ろからベリクリーデを呼ぶと、奴は鍬を振り上げたまま、びくっとして固まった。

「…ジュリスの声だ。ジュリスの声が聞こえたよ」

「そりゃ、お前の後ろにいるからな」 

「…と思ったけど、きっと気の所為だね。よし。続きを耕そー」

「こら!気の所為にするんじゃない」

ガシッ、とベリクリーデの肩を掴んだ。

よし。捕まえたぞ。現行犯逮捕。

もう逃さんからな。言い逃れも出来んぞ。

「ふぇ?ジュリスどうしたの?」

「どうしたの、はこっちの台詞だ。お前こそ何をやってる」

何処の誰が、隊舎の裏庭を畑にして良いと言った?

とんでもないことである。