しかも。

「あ、マシュリ君。それ運んでくれる?」

「良いけど…。…チョコレートの匂いがキツ過ぎて、頭痛くなってきた…」

マシュリは大きな段ボール箱を運びながら、ポツリとそう呟いた。

…そうだろうな。可哀想に。

俺でさえ、噎せ返るチョコレートの匂いに胸が悪くなってきてるのに。

鼻の良いマシュリにとっては、地獄以外の何物でもあるまい。

「それに、この段ボール箱からもチョコレートの匂いがする…。…これは何?」

マシュリが尋ねると、シルナはよく聞いてくれたとばかりに、

「チョコレートだよ!小分けしたチョコ菓子」 

相変わらずのドヤ顔で答えてくれた。

今日、この部屋だけで凄まじい量のチョコレートを消費してるな。間違いなく。

「今日はね、全校生徒のみならず、近所の皆さんも招待しようと思って!マシュリ君も校外の知り合いがいたら、招待しても良いよ」

…何を言ってるんだ、このアホは。

近所の皆さんも飛び入り参加OKって。そんな、オープンスクールみたいなノリで。

「校門の前に、『イーニシュフェルト魔導学院チョコフォンデュパーティー開催中。参加自由。無料』って立て札を立てておくんだ」

それ、本当に参加者いるのか?

まさか、近所の皆さんも、魔導学院でチョコフォンデュパーティーが開かれるなんて思ってないだろうな…。

「その小分けチョコは、参加してくれた人に配るプレゼントなんだ。ウェルカムドリンクならぬ、ウェルカムチョコレートってね!」

全然笑えない。シルナが一人でにっこにこ。

ウェルカムチョコレート…。…要らねぇ…。

「そんな戯言はどうでも良いですが、私が気になるのは」

フォンデュの具材用のプチパンケーキを運ぶイレースが、ジロッとシルナを睨んだ。

「このふざけたパーティーの資金源です。当然、全ての費用をあなたの私財で支払ってくれるんでしょうね?」

…確かに。

こんな盛大なパーティー。かかる費用も並みではないだろう。

学院の財布を取り仕切るイレースにとっては、何より重要なことに違いない。

すると、シルナは。

「ぎくっ…」

…ぎくって何だよ。

「そ、それは…イレースちゃん。皆が笑顔になる為に必要な経費ってことで。ほら、学外のお客さんも招待するから、学院の良いPRにもなるし。広告活動だよ、これは。だから学院の広告予算から支払、」

「全額、学院長に請求させていただきます」

「…はい…」

…当たり前だよ、馬鹿。