シルナがやりたがってることは分かったよ。

最近、何かと陰鬱な事件が続いていたからな。

皆に笑顔を取り戻して欲しいという、シルナのその気持ちは尊重する。

生徒達も、知らず知らずのうちに『ムシ』に寄生されてて、大変だったもんな。

…まぁ、令月とすぐり以外の生徒は、そのことを知らない訳だけど。

しかし、何でそこで、チョコフォンデュパーティーをしようという発想になるのか…。

幸せの基準が、シルナの趣味に偏ってるなぁ…。

「大体、その忌々しいチョコの噴水」

「チョコファウンテンだよ、イレースちゃん」

「何でも良いんですよ。で、それは何処から持ってきたんです」

「これは私の私物だよ」

謎のドヤ顔。

そんな巨大なチョコファウンテンを、何で三つも持ってるんだ?お前は。

「で、何故そのパーティーとやらの準備を、私達に手伝わせるんです。私の仕事は教員としての職務のみであって、チョコパーティーの準備など給料のうちに入っていませんよ」

その通り。全くだイレース。

特別手当を要求する。

「そんな!だって、チョコフォンデュパーティーだよ?楽しい楽しいチョコフォンデュパーティー!その準備を出来るんだから、お給料では換算出来ないやり甲斐が…」

「…ブラック企業みたいなこと言ってますね」

「労基に訴えますよ」

ナジュが呟き、イレースは容赦なく一刀両断した。

その通りだ。もっと言ってやれ。

「大体、今から準備してどうするんです。この後は午後の授業があるでしょう」

…そういえば。

今は昼休みだから、この後5時間目と6時間目の授業がある。

それなのに、シルナは。

「え?良いじゃない、授業なんて今日くらいお休みで。今日は午後の授業無しで、皆でチョコフォンデュパーティーしよう!」

学院長としてあるまじき発言。

こんなふざけた発言を、我が校の鬼教官が許すはずがなかった。

「…ちょっと済みませんね、耳が遠くなったようです。もう一回言っていただけます?」

「ひっ…。じょ、冗談だよイレースちゃん。ほ、放課後!放課後にパーティーするから!杖、その雷を纏った杖を下ろして!」

シルナよ。発言には気をつけろよ。

イレースの雷で黒焦げになりたくなかったらな。

「で、でも…6時間目の授業をちょっと早く終わらせて…チョコフォンデュパーティーに当てたいな〜…。なんて…」

「…」

イレースは恐ろしい形相で睨んでいた。怖っ…。

「まぁ、良いんじゃないですか?たまには」

ナジュが、シルナの意見に賛成した。

「ねぇ、天音さん」

「そうだね…。生徒達も喜ぶだろうし、たまには良いんじゃないかな」

天音も。

「だよね、だよね!二人もそう思うよね!」

二人が賛成してくれたのを良いことに、シルナはさながら水を得た魚のよう。

「ねっ、令月君とすぐり君も!」

「僕は別にどっちでも良いけど…」

「ツキナは喜びそーだから、俺は賛成だなー」

「ほら!二人もこう言ってる!」

すぐりはともかく、令月は賛成しているとは言えないだろ。