「三大天使の一翼として命じます。この者の洗脳を解きなさい」

智天使ケルビムは、ハクロとコクロに、ナツキ様の洗脳を解くように命じた。

「っ…」

「…」

二人共、「三大天使」という言葉を出されて命じられては、従わない訳にはいかなかった。

「金輪際、聖賢者様に手出しをすることも、その為に他の誰かを利用することも禁じます。…決して、罪のない人々を巻き込まないように」

そう言って、智天使ケルビムはくるりとこちらを振り向いた。

…初めて目が合ったな。

「…申し訳ありません、皆さん。…ご迷惑をおかけしました」

天使様ともあろう者が、俺達に謝罪するとは。

「そんな…。えぇと…助けてくれてありがとうございました…って言うべきなのかな」

シルナは、言葉に困りながらそう言った。

しかし、智天使ケルビムはそっと首を横に振った。

「やめてください。こうなったのは、あなた方が危険に晒されたのは、全て私の…私達のせいなのですから」

「…それでも、あなたは私達を庇うという選択をしてくれた。そのお陰で、今こうして私は仲間達と共に生きていられる。…だから、お礼を言うのは当然だよ」

「…そうですか。やはり、あなたは優しいのですね」

ふっと、ケルビムは微笑んでみせた。

「リューイの言った通りです…。あなたはただのお人好しだと。だから…きっと原罪に触れることもないでしょう」

…原罪?

って、一体何の話…。

「それから…。…神竜族、マシュリ・カティア」

しかしケルビムは、それ以上原罪という言葉には触れず。

代わりに、今度はマシュリの方を向いた。

「あなたには、謝らなければなりません。いえ…謝っても許されないことをしてしまいました」

「…」

マシュリを…殺そうとしたことか。

ちゃんと忘れてなかったんだな。この天使様は。

マシュリは無言で、黙ってケルビムの謝罪を聞いていた。

「あの時は、セラフィムとソロネに説得され…。あなた方を討つのが正しいことだと、自分にそう言い聞かせていたのです。あなたをこの手で殺めたのも…」

「…」

「正しさを考えることを怠ってしまった、私の責任です。あなたに辛い思いをさせてしまいました。…本当にごめんなさい」

…腰の低い天使様である。

結果的に心臓を取り戻して生き返ったのだから、俺達としてはそれで結果オーライだが。

殺されかかった…と言うか、実際に殺されたマシュリにとっては、そんな謝罪の言葉一つで許すというのは、無理な話だった。

絶対に許さない、謝罪は受けない…と、激昂しても文句は言えなかった。

しかし。

「…もう、気にしてないよ」

マシュリは、小さく首を横に振りながら答えた。

…そう言うと思った。マシュリなら。

怒って当然の場面でも、マシュリだったら、きっと智天使ケルビムを責めるようなことはしない。