智天使…ケルビム。

リューイを俺達のもとに遣わした張本人であり、そして…。

…マシュリの仇でもある。

それは忘れてないぞ。…さすがにな。

だけど、今は。

俺達に敵対する為に、ここに現れた訳ではなさそうだ。

それどころか、智天使ケルビムは俺達を守るように、

「これ以上、この者達に手出しすることは、この私が許しません」

小柄な身体で、毅然としてそう言った。

威厳のある姿は、確かに三大天使の一人と言われて遜色なかった。

「っ、馬鹿な…!あなたは御自分が何をなさっているか、分かっているのですか」

「イーニシュフェルトの聖賢者を討つことは、熾天使様と座天使様の御意志です。お二人に逆らうことは、それ即ち聖神ルデス様に逆らうのと同義…!」

「あなたには、その覚悟がお有りなのですか」

「当然です」

見事。鮮やか。

智天使ケルビムは、きっぱりとそう答えた。

「私は私の意志で、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアを討つことは間違っていると判断したのです。我らが主、聖神ルデス様がこの場にいたら、私は間違いなくそう進言したでしょう」

「…!」

「その上で我らが主が、それでもお二人を討つことが正しいと仰るなら、その時は私も、三大天使として神の御意志に従わなければならないでしょう。ですが…今この場に、我らが主はいらっしゃらない」

裁定を下す神は、ここにはいない。

この場にいない者の意志は、推し量ることしか出来ない。

「何が正しく、何が間違っているのか、自分の頭で考えなければならないのです。神の名に恥じぬように」

「ですが、熾天使様と座天使様は…!」

なおも、ハクロは食って掛かろうとしたが。

「それはセラフィムとソロネの意志であって、我らが主の御意志ではありません」

…その通り。

神の意志など、誰にも分からない。…神でなければ。

「今度は、もう油断しません。聖賢者シルナ・エインリーを許した私を、セラフィムとソロネが許せないと言うなら…。私は、セラフィムとソロネに敵対することも厭いません」

「…!なんということを…!」

爆弾発言だな。…天使としては。

この天使は…どうして、そこまで…。

「誰が何と言おうとも、私は私の正しいと思ったことをします。常に正しい選択は何なのか、どうするべきなのかを考え続けます。それが、神に賜った私の使命です」

誰が何と言おうとも、正しいと思ったことをする…。

生半可な覚悟じゃ、そんなことは言えないだろう。

天使としては、相当やばい発言である。

でも…この毅然とした、凛々しい態度。

リューイが何故、仲間の天使と戦うことになっても、この智天使ケルビムについてきたのか…。

その理由が、少し分かったような気がした。