――――――…その時、俺は呑気に自分の部屋で就寝中だった。

後になって、自分の能天気を呪ったものだった。

散々シルナや仲間達のことを、能天気だと心の中で罵ったものだが。

自分も、負けないくらい能天気だったのだ。

 


…ふと、夜の冷気を感じた。

外の冷たい風が顔に当たって、俺はぼんやりと薄目を開けた。

…あれ…。

視線の先の窓が、何故か全開になっていた。

寝起きの頭で、しばし開け放たれた窓を眺め。

あれ、俺窓開けっ放しのまま寝てたっけなぁ…と考え。

そんなはずがないと思い当たって、背中に冷たいものを感じて飛び起きた。

まさか、賊が侵入してきたのでは。

しかし、そこにいたのは賊ではなかった。

「れ、令月…?」

「…」

元暗殺者組の生徒、令月だった。

彼らのいつもの仕事着である黒装束を身に着けて、非常に険しい顔をして立っていた。

…な、何で令月がここに?

「お、お前…。今、何時だと思ってるんだ…?」

外は真っ暗。生徒達は学生寮で眠っていなければならない時間だ。

当たり前のように門限を無視して、今夜も深夜のパトロールとやらに出ていたのだろう。

なんべん言ってもお前は。いや、お前らは。

令月が外に出ているということは、当然令月の相棒…すぐりも、同じように外出してるんだろう。

…で、すぐりは何処だ?姿が見えないが。

つーか、何で窓から入ってきたんだ。どうやって?

窓、鍵かかってただろ。

いや、そんなことより。

「何なんだ?こんな時間に。俺の寝首を掻きに来たのか…?」

「そうだったら良かったんだけどね。そうじゃないんだ」

良くねーよ。全然。

元『アメノミコト』の暗殺者に寝首を掻かれたら、ひとたまりもない。

令月が「その気」だったら、俺は今頃眠ったまま喉を掻き斬られて、寝ながらあの世行きだったぞ。

「じゃあ、何なんだ…?」

人様が眠ってる時間に、こっそり忍び込んで起こすくらいなんだから。

そりゃもう、大層重大なことが…、

…しかし、それは重大どころではなかったのだ。

「…」

令月は後ろめたそうな顔をして、しばし逡巡した。

…え?

令月と言えば、いつもなら、大人達が気を遣って沈黙している時でも。

容赦なく、思ったことをズバッとはっきり言う奴なのに。

そんな令月が口にするのを躊躇うのだから、これは只事では、

「…落ち着いて聞いてね」

沈黙を破った令月は、最初にそう前置きした。

な、何なんだ?そう言われると余計に…。

「…マシュリが死んだ」

「…え…」

小さな声で、しかしはっきりと、令月はそう言った。

そのシンプルな一言の意味が分からず、俺は口をぽかんと開けて固まってしまった。