「…っ…」

天音が防御魔法を展開してくれたにも関わらず、凄まじい衝撃。

それでも、この場にいる誰も、命を失った者はいなかった。

爆弾を埋め込まれていた、バニシンとイルネでさえ。

天音の展開した防御魔法が守ったのは、味方だけではなかったのだ。

天音は、バニシンとイルネの二人も守っていた。

操られているとはいえ、あの二人は元々敵なのだ。守る必要はないはずだった。

でも、そうすると思った。天音なら。

体内の爆弾と共に、心臓に巣食っていた『ムシ』もまた、爆発の衝撃で霧のように蒸発していた。

…これで、バニシンとイルネは解放した。

…それから。

「くそっ…!離せ、離せ!お前ら、俺を誰だと思ってる!」

「はいはい、うるさいうるさーい」

「僕は、君が誰でも構わないよ」

子供のように喚くナツキ様を、令月とすぐりは子供をあやすようにあしらっていた。

…全く、どっちが子供だか。

すぐりの糸魔法に雁字搦めにされたナツキ様は、無様に床の上でうごうごと身を捩っていたが。

残念だったな。すぐりの糸魔法は、俺やシルナだって抜け出すのは困難なのだ。

ナツキ様に逃れられるはずがなかった。

ましてや、令月の小太刀に見張られている状態で。

…それから。

「…ありがとうな、マシュリ。イレース。…ナジュも」

「上手く行って良かったよ」

「この程度、上手く行って当たり前です」

「いやぁ、皆さん惚れ惚れするようなナイスコンビネーションでしたね」

マシュリは安心したように、イレースは当然のように、ナジュは感心したように、それぞれ言った。

…全くだよ。

皆、分かってたんだな。

…シルナが、本当に仲間を見捨てる選択をするはずがないってことを。

「…シルナ…」

「…うん」

シルナもまた、心から安心したように頷いた。

信じてはいた。信じてはいたけど…心の何処かで不安だった。

俺は、シルナが演技をしていることをすぐに見抜いていた。

シルナが本気で、仲間を見捨てる訳がない。ハクロとコクロを油断させる為の演技だって、すぐに分かった。

読心魔法で瞬時にシルナの本心を見抜いたナジュも、同じく迫真の演技を披露して。

さも、シルナが本気で仲間を見捨てることを選んだかのように見せた。

不安だったのは、俺とナジュ以外の仲間達だった。

あの状況で、読心魔法を使えない彼らが、果たしてシルナの演技に気づいてくれるだろうか。

こればかりは、各人のシルナに対する信頼を信じるしかなかった。

だけど、その不安は杞憂に終わった。

皆、ちゃんとシルナを信じてくれた。

あれがシルナの演技だと気づいて、ナツキ様が爆弾を起爆すると同時に、皆流れるような連係を見せた。

あらかじめ、そうすることを示し合わせていたかのように。

全ては、俺達の仲間としての信頼関係の上に為せる技だった。

それが全部、綺麗に成功したのだ。

強い達成感と共に、無類の喜びを感じていた。

俺でさえそうなのだから、シルナの喜びは、きっと俺を遥かに上回っているだろう。