…え。

「…何だと?」

ジロッ、とナツキ様がシルナを睨んだ。

「どうぞ、お好きに。誰でも良いよ。殺したいなら好きに殺せば良い」

シルナは、別人かと思うくらい、抑揚のない冷たい声で。

無表情で、無慈悲にそう言った。

…シルナ。

これには、てっきりシルナが狼狽えるものと思っていたらしいナツキ様の方が、逆に動揺していた。

「…脅しだとでも思ってるのか?俺はやると言ったらやるぞ」

「だったら、どうぞ。爆弾でも何でも、勝手に使えば良い。私は誰が死んでも構わない。…羽久以外は」

淡々と、連絡事項でも伝えるかのように。

どうでも良さそうに、シルナはあっさりと仲間の命を見捨てた。

「シルナ…お前…」

「…羽久、君なら分かるよね。私が一番大事なのは、君の命だけだ」

…それは。

「その他なんて、所詮その他でしかない。羽久一人の命とは比べ物にならない。羽久を犠牲にするくらいなら、私はその他の命なんて頓着しないよ」

あまりにもきっぱりと。何の迷いもなく。

これには、シルナ以外の誰もが愕然としていた。

「学院長…!あなたは、僕達の命を見捨てるつもりですか!僕達は、ずっとあなたを信じて、あなたの為に…!」

シルナの心を読んで、その言葉がシルナの本心であることを知ったのだろう。

ナジュは、珍しく酷く焦った顔でそう言った。

だが、シルナにとって、何よりも大切な俺の…いや。

二十音・グラスフィアの命を天秤にかけられたシルナは、誰に何を言われようとも一切揺るがなかった。

「そう。でも私にとって、二十音以上に大切なものは存在しないから。二十音を守る為に君達の命を見捨てなければならないなら、私は躊躇わない」

「…!そんな…」

…それが、シルナの選んだ結論だった。

俺の…二十音の為なら、全てを捨てる、覚悟。

「…そうか。なら、望み通りにしてやろう」

売り言葉に買い言葉、とばかりに。

ナツキ様は、バニシンとイルネ、二人の体内に埋め込まれた爆弾を起爆した。