ナツキ様の逆鱗に触れてしまったことは、百も承知。

だが、それでも言わずにはいられなかった。

「フユリ様だったら、絶対にそんなことはなさらない。一国の王としての器ってものが、あんたにはないんだよ…!」

「…黙れ。この俺に、偉そうな口を利くのは許さない」

ナツキ様は、殺気を込めた眼差しで俺を睨んだ。

「何を勘違いしているのか知らないが、ここは俺の国で、俺の城だ。お前達の命は、俺の手のひらの上にあることを忘れるな」

ナツキ様が何のことを言っているのかは明白だった。

人間爆弾と化した、バニシンとイルネ…。

ナツキ様がその気になれば、今すぐにでもこの二人の爆弾を起爆させられる。

この部屋の中で、二つの爆弾が爆発すれば…。

…いくら俺達でも、ただでは済まない。

不死身であるナジュ以外の、全員に命の危険がある。

「もう一度言う。シルナ・エインリー、羽久・グラスフィア。お前達はこの場で自害しろ。さもなければ、お前達の仲間を木っ端微塵にしてやる」

「…」

どうしたら良いのか分からなくて、俺は頭の中がぐちゃぐちゃだった。

…どうしたら良い。どうすれば、この場を切り抜けられる?

俺は死ぬつもりはないし、シルナだってそのはずだ。

だけど、仲間を危険に晒す訳にはいかない。

第一、本気でナツキ様が起爆を命じたら、俺とシルナだってただじゃ済まないのだ。

この場にいる全員が死ぬよりも、俺とシルナの二人だけが…犠牲になった方が良い。

「さぁ、どうした?お優しい学院長先生、絶対に仲間を助けるんだろう?」

「…」

煽られても、シルナは無言だった。

ただ、じっと何かを考え込んでいるようだった。

「お前達二人が自害すれば、お前の仲間達には一切手を出さない。無事にルーデュニア聖王国に送ってやると約束する」

「…」

「それから…。…そうだな、金輪際、ルーデュニア聖王国からも手を引いてやる。どうだ?最高の条件だろう」

何が「最高の条件」だ。俺にとっては最低だ。

そして、悪魔の選択でもある。

俺とシルナが自殺すれば、仲間達の命も、ルーデュニア聖王国にいる全ての人々の命も守ることが出来る。

俺とシルナが死ねば…これ以上、誰も傷つかずに済む。

それは、非常に魅力的な誘惑のようにも思えた。

俺だって死にたくはない。死にたくはないけれど…。

でもそれ以上に、仲間達を守りたかった。

自分の命でそれが叶うのなら、生きることを諦めても良いと思うほどに。

「…まさか、馬鹿なことを考えてるんじゃないでしょうね」

俺の心の中を見透かしたように、イレースが鋭く警告した。

「い…イレース…」

「仮にあなた達が自害したとして、その後、この男が約束を守るという保証が何処にあるんです」

そ…そう言われたら、そうだ。

今この場で「約束する」と言いながら、やっぱりフユリ様もムカつくから、ルーデュニア聖王国にも侵攻します、と言い出す可能性だって…。

そうしたら、俺達は無駄死にになってしまう訳で…。

「そ…そうだよ。学院長先生と羽久さんが犠牲になるなんて、そんなこと絶対に、」

と、天音が言いかけたその時。

「…どうぞ、お好きに」

ずっと沈黙を守っていたシルナが、ようやく口を開いた。