「皇王陛下…」

「俺の城で、よくも好き勝手してくれたものだな。不正入国に加え、この皇宮への不法侵入…。この代償は高くつくぞ」

…そうだろうな。

でも、俺達がそれほどの危険を冒してここに来たのは、あんたの為なんだぞ。

「愚かな妹の命令か?俺を暗殺しろとでも命じられたか」

「違う。俺達は、あんたを助けに来たんだ」

「…何?」

フユリ様が、あんたの暗殺なんか企むもんか。

むしろ、その逆なんだ。

「いい加減目を覚ませ。あんたは、ハクロとコクロに騙されてるんだ」

「…」

「フユリ様への憎しみを駆り立てられて、良いように操られてる。自分が何をしようとしてるのか、ちゃんと考えろよ!」

このままじゃ、本気でルーデュニア聖王国に侵攻してしまうんだぞ。

それはあんたの意志ではなく、全てはシルナを追い詰める為の、ハクロとコクロの計画なのだ。

…しかし。

「…戯言を。適当なことを言って煙に巻けば、この場を切り抜けられるとでも思ったか?」

ナツキ様は、案の定、鼻で笑ってみせた。

…やっぱり駄目か。

「皇王陛下、お下がりください」

「ここは我々が…」

ハクロとコクロが、ナツキ様を庇おうと前に出た。

しかし。

「丁度良いじゃないか。こいつらがわざわざ、ここまでやって来たのだから」

ナツキ様は二人の家臣を遮って、居丈高にそう言った。

「あの役立たずのヴァルシーナ・クルスが言っていた。シルナ・エインリーと、その手下である羽久・グラスフィア。この二人が、聖魔騎士団の要だと。つまり、お前達をこの場で排除してしまえば、聖魔騎士団は骨抜きだ」

「…何を言って…」

「そこで取り引きだ。シルナ・エインリー、それに羽久・グラスフィア。お前達は、この場で自害しろ」

…は?

これには、俺もシルナも驚いて言葉が出なかった。

自害しろ…って、俺とシルナに、この場で舌を噛んで死ねと言うのか。

「…そんなの…言うこと聞くと思ってるのか?」

「そうだな、死ねと言われて死ぬ奴はいないだろう。だが…お前は『絶対に仲間を見捨てない』、『お優しい』学院長様なんだろう?仲間の為に、喜んで危険に身を晒す覚悟があるんだろう?」

「…」

「だったら、命をとしてそれを証明してみせろ」

…まさか。

俺は、ナツキ様が何を言おうとしているのか察して、背筋が冷たくなった。

「お前達二人がこの場で自害しなければ…そこにいるお前達の仲間を、全員殺してやる」

ナツキ様は、俺が予想していた通りの言葉を告げた。

…やっぱり。そんなふざけた交換条件を…。