「いくらナツキ様の部下だからって…他人の命まで、操り人形みたいに使って良いはずがないだろ!」

渾身の怒りを込めて言葉をぶつけても、ハクロとコクロは相変わらず、顔色一つ変えない。

それどころか。

「…それを、あなたが仰るのですか」

…えっ。

「あなた方とて、シルナ・エインリーの手駒として使われているではありませんか」

「『ムシ』によって操られているか、言葉によって操られているかの違いしかありません」

「…!」

…何を、言って。

「ふざけたことを言わないでいただきたいですね」

思わず怯みかけたところを、イレースが険しい表情で一喝した。

「私は、私の意志でここに居るんです。このパンダの命令だからではありません」

「…イレースちゃん…」

「…そうだよ。僕だって同じだ」

「…天音君…」

イレースに続いて、天音も、珍しく強い口調でそう言った。

「君達は、僕らが学院長先生に言葉巧みに操られてここに居ると思ってるんでしょう。でも、僕らは違う。学院長先生は、君達みたいに卑怯な手を使って僕らを操ったりしない」

…その通りだ。よく言った、天音。

『ムシ』によって、無理矢理性格を変えられてるんじゃない。自分の意志を捻じ曲げられているんじゃない。

俺達は、互いに対する信頼だけでこの場に立っているのだ。

何よりも強い、絆という名の信頼のもとに。

…お前達と一緒にするな。

「残念ですね。精神攻撃は通用しませんよ」

ナジュが、ハクロとコクロを見据えて言った。

「次はどうします?この戦力差で、正面からぶつかってみますか?」

「…」

「…」

ハクロもコクロも無言。

そうだ、狼狽えるな。

いかに、ハクロとコクロが大天使であろうとも。

バニシンとイルネが加勢しようとも。

「…まだ行けるよ」

「次は絶対仕留める」

天音の回復魔法によって応急処置を済ませた令月とすぐりが、再び臨戦態勢を取った。

手負いの身ではあるが、二人共まだ戦う意志を失っていない。

こっちは九人。向こうは四人。

真正面からぶつかっても、充分勝算はある。

新たな加勢が入る前に、一気に仕留める。

「覚悟しろよ、この外道共…!」

と言って、杖を握り締めた、

その時だった。





「…喧しいと思ったら、ネズミが入り込んでいたのか」




…!?

突如聞こえた声に振り向くと、そこに居たのは。

他ならぬアーリヤット皇王、ナツキ様その人であった。