真っ先に動いたのは、元暗殺者組の令月とすぐりだった。

考えるより先に行動、の精神で、二人は目にも止まらぬ速さで、バニシンとイルネに肉薄した。

「令月、すぐり…!」

一切狙いを過たず、令月の小太刀がバニシンの胸を。

すぐりの鋭い糸が、イルネの胸を、それぞれ貫いた。

それで、『ムシ』は体内から飛び出すはずだった。

…しかし。

「…!」

バニシンは胸を斬り付けられながら、まるで動揺していなかった。

それどころか、令月の小太刀を素手で掴んだ。

ついさっき研いだばかりの鋭い令月の小太刀が、バニシンの手のひらに食い込んで血が滲んだ。

それでも全く構わずに、強く、更に強く小太刀を握り締め。

ついに、バキッと音を立てて、令月の小太刀の刀身が折れた。

「…!」

そんな、馬鹿な。力魔法で強化した令月の小太刀を、片手で、握り潰すように折るなんて。

令月は咄嗟に折られた方の小太刀から手を離し、バニシンから距離を取ろうとした。

しかし、バニシンはそれを許さなかった。

人並み外れた凄まじい速さで、令月の手首を掴んだかと思うと。

まるで玩具でも投げるかのように、令月の小柄な身体を思いっきり、壁に向かって投げつけた。

一般人なら、その一撃だけで全身の骨が砕けて即死するところだ。

「令月!!」

「…かはっ…」

あの状況でも、咄嗟に受け身を取ったらしく。

令月は床に膝を付きながらも、意識を保って上体を起こしていた。

その目は、まだ戦意を失っていない。

だが、いくら受け身を取ったとはいえ、あれほど強く叩きつけられて平気なはずがない。

口元に溢れた血を拭っているのが、何よりの証拠だった。

しかも、ダメージを受けたのは令月だけではない。

すぐりの攻撃は、イルネに届いていなかった。

イルネを庇うように、彼女が召喚した化け物…いつかの改造オルトロスが立ちはだかっていた。

そのオルトロスが、すぐりの攻撃を代わりに受けた。

深々とすぐりの糸が突き刺さっているのに、全く痛みなど感じていないかのようで。

それどころか、その鋭い爪で、すぐりを引き裂いた。

「ちっ…!」

咄嗟に身を躱したすぐりだったが、避けきれず、すぐりの血飛沫が宙を舞った。

…嘘だろ。畜生。